劇場公開日 2021年7月9日

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「ドキュメンタリーだからこそ表現できたもの」83歳のやさしいスパイ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ドキュメンタリーだからこそ表現できたもの

2021年7月26日
PCから投稿

高齢者施設に潜入して内部捜査せよ。そんな任務を負った素人スパイのご老人が、ひみつ道具や慣れないスマートフォン機能を駆使しながらその様子を探偵事務所へ報告する。この設定だけですでにドラマや映画へ応用できそうな気がするが、しかし本作の面白さ、というか”素朴さ”は、ドキュメンタリーだからこそ獲得できたものと言えそうだ。入居者たちも、83歳のスパイも、決して”演じている”わけではない。それぞれが素の人間としてここで出会い、言葉を交わし、交流を深めていく。そうやって人々の心に触れる自然な能力が、主人公にはもともと備わっているのだろう。作品として「スパイ」というキャッチーな部分が強調されているものの、その芯にあるのはここで暮らす高齢者たちの心の内側を覗き見ること。はたまた、任務を通じて生じる主人公の”心の移ろい”を感じること。全てはその瞬間をカメラに刻むための壮大な仕掛けですらあったかのように思える。

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牛津厚信