シカゴ7裁判のレビュー・感想・評価
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大統領選目前のアメリカへのソーキンの檄文
60年代後半に実際に行われた、いわば国による濡れ衣裁判の理不尽さと恐ろしさを描いた映画。
冒頭の状況説明シークエンスのテンポがとても早く、主要な登場人物8人が矢継ぎ早に出揃うので、実話の詳細を知らないとちょっと焦るかも知れない。起訴理由となった暴動の起こった日に彼らが取っていた行動は、裁判が始まった後の回想シーンで徐々に明らかになる。
とにかく理不尽な裁判だ。作中特にインパクトがあるのは、ホフマン判事の権力を笠に着た、横暴を極めた言動だ。被告達を見下し切って、黒人には奴隷制度を彷彿とさせるような扱いを平気で行う、岩のように動かぬ偏見を持つ人間。こんな頭のおかしい人間が何故よりによって判事などやっているのかと思ってしまう。
理不尽な裁判を表象するキャラクターとして描く監督の意図や、フランク・ランジェラの演技も奏功しているのだろうが、壁のような威圧感とふてぶてしさに苛立ちを感じずにはいられなかった。
ソーキン監督の創作エピソードもそこそこ入っている作品だが、ボビー・シールが法廷で拘束され猿轡を咬まされる異様なシーンは事実通りだ。映画では弁護士達の申し立てにより審理無効となり、すぐに拘束を解かれたように見えたが、実話のほうがひどくて3日間猿轡のままだったというから驚きだ。
クンスラー達が「息は出来るか?」と気遣うシーンに、ごく最近のアメリカでの事件がフラッシュバックする。撮影時期から見て、ジョージ・フロイドの事件とは無関係だろう。だが、アメリカの黒人差別の根深い歴史の中で、似たような場面が長く繰り返されていて、それが今も続いていることに改めて気付かされる。
権力の横暴と人種差別。50年前の裁判が抱えていた問題点を描く作品を2020年大統領選の直前に叩きつけることで、ソーキンは半世紀前と同じ課題を今も解決出来ないでいるアメリカ社会を一喝し、強く訴えている。
4年に1度与えられる、平和的に政府を覆す憲法上の権利を今こそ行使し、革命を起こす時だと。
インビジブルだった8人目
本作を観る前の事前情報として、共謀していたわけでもない7人のデモ参加者が不当に逮捕されて裁判にかけられる程度のことは知っていた。そして、映画を見始めて何か違和感を感じた。この違和感ゆえに本作は傑作だと思ったのだけど。
裁判にかけられた人数が7人ではなく、8人だったからだ。なのに、なぜ本作で扱われた事件が「シカゴ・セブン」と呼ばれ、本作のタイトルも『シカゴ7裁判』なのか。
7人は暴動に発展したデモに確かに参加していた。しかし8人目の黒人ボビー・シールはデモに参加すらしていない。にもかかわらず、陪審員の心象を悪くする効果を狙ってか一緒に起訴され弁護士もつけられないまま裁判が進む。途中で裁判から外されたために、残った7人が「シカゴ・セブン」と呼ばれ、民主主義にために戦った英雄となったわけだ。
では、ボビー・シールは何と戦っていたか。彼が8人目としてカウントされていないこと自体に、アメリカ社会の根深い病巣があるのではないか。インビジブルになっていた幻の8人目を浮かび上がらせたことが本作を傑作にした。
法廷劇と民主主義の親和性を示す好例
歳とともに嗜好が変化するのは珍しくもないだろうが、若い頃は弁論が延々と続く法廷劇がどちらかと言えば苦手だったし、アメリカではなぜ裁判を扱う映画(さらには弁護士が主人公のドラマも)が一定の人気を保っているのか解せないでいた。だがいつの頃からか、米国や他の国の作品でも面白いと思える法廷物に出会うようになり、対立する双方の言葉の応酬によって事件や陰謀の真実や全貌が明らかになっていく過程を楽しめることが増えた。
軍事法廷を扱った「ア・フュー・グッドメン」で脚本家デビューしたアーロン・ソーキンも、裁判やそれに準ずる状況での論争を物語のエンジンにすることを得意とするストーリーテラーだ(「ソーシャル・ネットワーク」「モリーズ・ゲーム」などもそう)。彼が脚本・監督を務めた本作を観て、法の下の平等や言論の自由といった民主主義の根幹をなす概念を対話によって語る上で、法廷劇のフォーマットが適しているのだと実感した。
ソーキンが訴訟の経緯などに関する史実を改変してまで描きたかったのは、法に基づく正義のあり方、言論と議論によって実現する民主主義といったものの理想の姿ではないか。もちろん理想と現実には隔たりがある。銃規制が進まず、差別も格差もなくならない今のアメリカを見ればそれは自明だ。それでもソーキンのような表現者たちは、理想を描く作品には現実をより良く変える力があると信じてメッセージを送り続けるのだろう。
脚色の是非
アーロン・ソーキンの筆致はいつもハッキリとした意思を持っている。「ソーシャル・ネットワーク」や「スティーブ・ジョブズ」のように、誰もが知る有名人をモチーフにした場合でも、ありのままの事実をなぞるようなことには興味がない。断片的な事実を巧みに組み換え、場合によってはフィクションを織り交ぜて壮大なドラマを紡いでいく。
悪く言えばこれは歴史の改ざんだ。彼の作品にはいつでも“事実とは違う”という批判がつきまとう。今回の「シカゴ7裁判」もまた、実際には起きなかったことを加えたり、事象が起きた時間を前後させたりと大胆な換骨奪胎を行っている。
評価の分かれ目は、その“脚色”の是非だろう。伝えたいテーマに寄り添うがあまり、事実を都合よく捻じ曲げていると批判する意見ももっともだ。ただ個人的には、ソーキンの手法は“ストーリーを語る”という映画の特性をかくも美しく浮かび上がらせていると称賛したい。
シカゴ7裁判という出来事が持つ意味を、できるだけ多くの人に伝えるためにはどうすればいいのか?虚構入り交じる映画という媒体を通して描く最も効果的な解のひとつが、ソーキンの筆致にあるのではないか。
若き日のトム・ヘイデンと出会えるA.ソーキンの社会派エンタメ
1968年にシカゴで行われた民主党大会で暴動を企てた罪に問われた7人の被告が、いかに不公平なやり方で裁かれたか?それを検証する実録ドラマと書くと、重々しいリアル法廷劇を想像するかもしれない。が、さにあらず。脚本と監督を兼任するアーロン・ソーキンはポップな音楽とドラマチックな編集を駆使して、全体像としては、過去に関わった「ア・ヒュー・グッドメン」(92/原作・脚色)や「モリーズ・ゲーム」(17/監督・脚本)、そしてドラマの「ザ・ホワイトハウス」(19~/脚本・製作総指揮)の体で、社会派エンタメとして乗りよく描き上げていく。同じ戦争反対でも手法が異なる7人の間に生じる軋みを、エディ・レッドメインやサーシャ・バロン・コーエン等、色の異なる若手演技派たちの絶妙なアンサンブルで楽しませつつ。同時にまた、法廷で行使される人種差別的暴力がBLM運動で揺れる今のアメリカを連想させて、この作品が今年リリースされたことには少なからず意味はあったと思う。因みに、レッドメインが演じる反戦活動家のトム・ヘイデンは、反戦運動を通して知り合った女優のジェーン・フォンダと1973年に結婚(90年に離婚)。フォンダを介して映画ファンの間でも知られるようになった。「9時から5時まで」(80)のキャンペーンで来日した時のジェーンが、何かにつけて「トム・ヘイデン、トム・ヘイデン」と連呼していたのを思い出した。2016年にヘイデンは他界したが、まさか「シカゴ7」で若き日の彼に出会えるとは!?これも映画の楽しみの一つである。
監督の手腕が成功に導いたであろう良く出来た映画で、脚本が素晴らしい...
監督の手腕が成功に導いたであろう良く出来た映画で、脚本が素晴らしい。1968年のシカゴの裁判劇を2020年に映画化。アーロン・ソーキンが監督、脚本。実はソーキンは「シカゴ・セブン」の脚本を2007年には書き上げており、監督にはスティーヴン・スピルバーグが名乗りを上げていたらしい。2017年の監督、脚本作『モリーズ・ゲーム』でも注目してたソーキンなのに4年後に今作を観賞。2020年当時の話題通り大変満足の行く実話法廷劇であり編集が上手い。
主要な登場人物が多く、ベトナム戦争反対のデモを行うために 民主党の全国大会が開催されるシカゴに集まった主要人物が沢山、その家族や取り巻き、証言者や政府関係者、検事 弁護士 などなど次々と沢山登場して少し難しいかも知れないが、私は途中で"日本語吹き替え版"に切り替えて最初から観賞してすんなり理解。日本語の声優はとても良かった。字幕派の自分としてはまた"英語"で観直したいと思った130分。
弁護士役のマーク・ライランスはやっぱり素晴らしい役者だと改めて感心。
他 全ての役者の演技が良かったのもこの映画の評価すべき所かなぁと勝手に上から目線で思ってしまった。
戦没者に敬意を
いらいらいらいらw
正義
言葉の力と重さ
サシャ・バロン・コーエンの瞳に宿る知性、エディ・レッドメインの誠実そうな佇まい、マーク・ライランスの偏屈と言ってもいい程の意思の強さなど、演技以上の情報を付加可能なキャスティングの妙が発揮されまくってる。
そしてみんな大好きジョセフ・ゴードン・レヴィットが良い仕事してます。
しっかりレトロなルックに仕上げてるけど、情報量の多さはしっかり今時の映画でした。
まず時代背景を教科書程度は知らないと置いてかれるし、時系列順に情報提示されないし、制度と立場と関係性もややこしいわで、出来事と飛び交うセリフを越える情報量を処理するのがムズくて大変けどがんばって鑑賞した先には大きな感動が待ってるのでぜひ劇場で。
ラストはげっそりするほど号泣しました。
異色の裁判もの
「(ベトナム)反戦への、抗議活動をした若者活動家達」へ。
司法当局が起こした裁判なのは、まあ見ててわかったんです。
ただ被告となった若者達に、若干共感できないというか。
裁判中も審議を中断する行動に出たり。
被告は8人(7人ではない)で、寄せ集めだし意思統一がない。
それは私が分別がわかりすぎた、老年だから思うのだろうか、と。
だんだんもう有罪確定な、証言や証拠しか出て来ず。
もう負けだわ・・・。
なんて思ったけど。
彼らは「平和的に抗議したかった」「戦争に反対したいだけ」。
そこがポイントだったんだと、クライマックスでわかり。
次の行動に、胸を打たれてほろり。
この展開、あああそこで!な伏線回収。まいった。
実話が元になっているらしく(クレジットにはない)、歴史を知れた1作。
⭐️今日のマーカーワード⭐️
「勇気を出すべきです」
皆さん評価高いですが
人物関係を把握してから観に行った方が良い
せめて登場人物だけでも予備知識入れて観るべきだった、、
前半、片手間に見ていたこともあり名前と顔とキャラが一致せずに四苦八苦。片手間に観れる映画じゃなかった。もう一回史実をおさらいしてから、再鑑賞しようヽ(;▽;)
「ソーシャルネットワーク」とか「スティーブンジョブズ」の人だったのか。そりゃむずいはずだわ。
それでも会話やリズムのテンポが良いからか、最後まで飽きることなく見れた。
みんなも言ってるけど、判事ほんとに鬼。
最後は予想してなかったので泣いてしまった。主義とか思想とか、暴力とか煽動とかいろんな議論はあるけど、結局は彼らの行動の大きな根源はこれなのだ、ということ。
当時は徴兵制で意味があるのかないのかも分からない戦争で、たくさんの若い人たちが死んだ。行く必要がなかったかもしれない戦争で。今の若者たちの感覚とたぶん全然違うのだろうな。
星のみで。
世界が見てる
シカゴで開かれた民主党大会の日、会場近くで行われたベトナム戦争への反戦デモで警察との衝突が発生。デモの首謀者とされた7人(8人?)の被告人を巡る裁判の話。
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裁判とはいえ、最初から有罪だと決めている裁判なので、判事のやってることが理不尽のオンパレードで小学生のいじめレベル。弁護人側に有利な証人が証言する時は陪審員をわざと退席させたり、黒人の人には代理人をつけさせない、都合が悪くなると誰も異議ありと言ってないのに急に異議を認めますと言う(さすがにこれは笑った)。
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どこまで事実なのかはわからないけど、こういう人ってなんでそんなこと平気でできるのかね。やっぱ権力持つとそうなるのかね。全然出世とか権力とか興味ないけど、自分がどうなるのか知りたいから1回持ってみたいという気はするよねこういうの見てると。
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この裁判に気を取られて結局何のために被告人たちはデモをしていたのか忘れかけてたけど、最後のエディ・レッドメインの発言で思い出す。このデモって去年のblacklivesmatter運動と似てるとこあるんだよね。
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洋画を見てるとベトナム戦争周り、イラク戦争周りは本当に政府しか得をしてないことがよく分かる。いいよなぁ、戦争が起こっても絶対死なない立場の人は好き勝手できて。
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あとは、ボラット以外で初めてサシャ・バロン・コーエンを見たけど今作もユーモアと皮肉たっぷりで最高だった。日本にもこういう芸人いればいいのに
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