アジアの天使

劇場公開日:

アジアの天使

解説

「舟を編む」の石井裕也監督が、韓国人スタッフ&キャストとともにオール韓国ロケで撮りあげた作品。ひとり息子の学を持つ青木剛は妻を病気で亡くし、疎遠になっていた兄が暮らすソウルへ渡る。兄からは「韓国で仕事がある」と言われていたのだが、剛の期待とは違い、兄はその日暮らしの貧しい生活を送っていた。剛はほとんど韓国語も話せないまま、怪しい化粧品の輸入販売を手伝い始める。一方、ソウルでタレント活動をするチェ・ソルは、市場のステージで誰も聴いていない歌を歌う仕事しかなく、所属事務所の社長と関係を持ちながら、仕事や家族との関係について心を悩ませていた。主人公・剛を池松壮亮、兄をオダギリジョーが演じる。そのほか、ソル役に「金子文子と朴烈」のチェ・ヒソなど、キャストやスタッフの多くは韓国人が務めている。

2021年製作/128分/G/日本
配給:クロックワークス
劇場公開日:2021年7月2日

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(C)2021 The Asian Angel Film Partners

映画レビュー

4.5タイムリーな問題に挑むアジア映画界のトップランナー

2021年6月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

楽しい

幸せ

石井裕也監督が5月公開の「茜色に焼かれる」に続き、またも今の私たちが直面している難問を題材とする意欲作を世に送り出した(撮影の順は本作の方が早かったそうだが)。今回のテーマをやや大げさに言うなら、(主に政治や経済の分野で)日本と韓国の関係が悪化している現状で、市井の日本人と韓国人の付き合い方や助け合い、交流のあり方にどんな可能性があるのかを模索する、といったところか。もちろん石井監督のことだから、理屈っぽい話や理想論に走るのではなく、ソウルから地方へ向かう数日間の旅をたまたま同行することになった両国の3人組同士の姿を描き、人間味あふれるドラマを通じてさりげなく観客に考えること、感じることを促している。

妻を病気で亡くした小説家の剛(池松壮亮)は、8歳の息子・学を連れ、「韓国で仕事がある」という兄(オダギリジョー)を頼ってソウルに到着。早々に兄が仕事仲間の韓国人から商品を持ち逃げされて途方に暮れるが、3人は怪しげなワカメのビジネスの話をあてにして北東部の港町・江陵を目指す。

剛はソウルのモールで買い物をしていた時、観客のいない舞台で歌う元アイドルのソルを目にする。ソルは末端労働者の兄ジョンウ、喘息持ちの妹ポムを養うため細々と芸能活動を続けていた。3兄妹は若くして死んだ両親の墓参りのために電車に乗り、たまたま乗り合わせていた剛たち一行と思いがけず旅を共にすることに。

6人が最初に食事をした店で、酔ったジョンウは韓国人の嫌日感情と日本人の嫌韓感情が共に高まっているという世論調査の数字を韓国語で話す。韓国語がわからない剛は黙って聞いているばかり。剛がソルや他の韓国人に話しかける時は、通じていないのに日本語を口にする。観始めてからしばらく、なぜ剛も他の主要人物たちも簡単な英語でコミュニケーションをとろうとしないのか疑問だったが、これは序盤で容易に意思疎通させない石井監督の狙いだろう。旅の途中から片言の英語で、剛はソルたちと少しずつ会話するようになる。

コロナの時代を舞台にした「茜色に焼かれる」に比べれば、日韓関係の悪化はタイムリーさの点で弱いかもしれないが、長年にわたり改善が進まない印象だし、この問題を扱う映画もドキュメンタリーを除けばおそらくなかったのではないか。他の映像作家たちが敬遠しがちな、現在進行形の社会問題や国際問題といった扱いにくいテーマに果敢に挑む姿勢を石井監督に感じる。

「搾取する側と、搾取される側」という台詞が出てくる。あるいは、ソルが仕事をもらうため芸能事務所社長と関係を持っているという話。経済格差、男女格差が根強く残る社会という点でも、両国は似ている。剛の兄とジョンウはそれぞれ“搾取する側”になりたいと望んでいるが、その願いがかなうことはおそらくない。

それでも、たとえば家族を亡くした喪失感のように、ありきたりかもしれないが大切な感覚をきっかけに、歩み寄ったり共感したりできるようになるのかもしれない。あるいは、お腹がすいている時に、おいしい料理を一緒に食べるシンプルな喜びでもいい。

ファンタジックな要素が含まれる点では、「町田くんの世界」と共通する。現代の寓話のような側面はあるが、主要人物たちと同じようにもがき苦しみながらも支え合って今の時代を生きている人は大勢いる。

最後にもう一つ。ソルたちの親戚の家に泊めてもらう場面で、オダギリジョー演じる兄が色目を使うその家の娘・テヨンを演じているチャン・ヒリョンがなかなかに魅力的。これまで韓国向けドラマの出演が多かったようだが、日本で鑑賞できる出演作が増えるといいなと願う。

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高森 郁哉

4.5全ての映画ファンに「サランヘヨ(愛してる)」と伝える愛情深い作品

2021年5月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

新型コロナウイルスの脅威が迫りくる2020年2~3月に石井裕也監督、主演の池松壮亮、共演のオダギリジョーが韓国人スタッフ、キャストとともにオール韓国ロケで撮りあげた、命がけという言葉が大袈裟ではない気概で製作された意欲作。日本映画ともいえず、韓国映画ともいえず、国籍不明の映画と形容するほかない。
だが、芯が通っているから、どこの国の映画なのか?という些末な問題が一切気にならなくなる。
石井監督の眼差しがそのまま池松に憑依したかのようで、なんとも言えない気持ちになる。切ないのに温かい。全ての映画ファンに「サランヘヨ」と伝えている愛情深い作品。

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大塚史貴

4.0天使登場の意味

2024年9月13日
PCから投稿

なんとも言えない作品
妻を病気で亡くした後、兄に強く誘われてソウルへと行く。
ツヨシはおそらく何もかも見失っていたのだろう。
兄はツヨシのことをよくわかっている。
だから本来の彼を取り戻してやりたいと考えたのだろう。
「何とかなる」
兄はその程度の考えでソウルに来て、実際何とかしていた。
冒険心のある兄は弟にも少し刺激を与えるつもりだったが、パートナーに商品をすべて持ち逃げされてしまう。
ツヨシは言葉も全くわからない土地で路頭に迷うという文字通りの出来事に翻弄されながらも兄に付いて行くほかはない。
さて、
ツヨシの息子学
彼はほとんどしゃべることはない。
これが伏線となっている。
学もまた父によって人生を翻弄させられている。
幼い彼にできる選択などない。
その学は波の音を聞き、海辺まで行こうとして道がわからなくなった。
幸い警察に保護されるが、聞こえてくる波の音に意識が離れない。
知らない土地の海
同じ波の音
似たような風景
でもそこには母だけが切り取られたようにいなかった。
あの日家族3人で行った海
ようやくたどり着いたけど、母はやっぱりいなかった。
未だ離れることのない母への思い
ツヨシはようやく学の心に気づく。
ソル
売れなくなった歌手
韓国の芸能界事情 「女6」
ポムには公務員試験を強いる 同じく韓国事情
さて、
この作品に天使はなぜ登場するのだろう?
ソルは絶望の中で天使を見た。
その羽を拾うが、ポムの信じないという言葉で天使の羽を電車の中に捨てる。
同時に現れた学
彼は兄弟げんかがうるさかったのだろう。彼らから離れたいと思い車両を移った。
そうして出会った彼ら。
ソルは、
最近では両親のことを思い出せなくなっていた。
それは忙しさと家族のことと歌手としての道を失いつつあったからだろう。
彼女が今後どうすればいいのかを再確認しなければならない時期が来ていた。
天使はそのために現れたのか?
やがて彼女は遠い記憶とともに自分自身を取り戻す。
ただそれは、スピリチュアルではあるが単なる言葉によって表現される。
いきなりその言葉として表現される。
その場所が彼女にとっての想い出の場所であったことだけはわかる。
天使は、
随分前にツヨシ兄弟の前に現れ首筋に噛みついている。
それは印とともに今後の使命を意味していたと考える。だから彼らだけに噛みついたのだろう。
それがソル家族との接点として、特にソルを立ち直らせるという意味があったと考える。
際どいところだが、天使は恋のキューピッドではない。
それ故、おじさんという表現だったのだろう。
おじさんだからおじのようにソルを心配する。
ソルが自分自身を取り戻したことで天使の思いは完了する。
冒頭のスノーボールのシーン
ソルの原点
そうして兄と別れ、帰国するのかどうするのかを決めかねているツヨシに、ポムが「ビール飲みたい」と言ったことで、彼らの自宅にお邪魔して皆でご飯を食べる。
たくましく皆無言でご飯を食べている。
ビールを飲んでいる。
それこそが、生きている証だろう。
そしてそこに出発点がある。
それにしても韓国には他人の茶碗のごはんを取って食べる習慣があるんだなと思った。
それだけ親しくなった証なのだろう。
おかしなところにある墓にも驚いた。
一番驚いたのは、薄々感じてはいたが、やはりそこで物語が終わったことだ。
言葉がわからないこと
「相互理解」というセリフ
日韓お互い嫌悪していること
でも同じ痛みは共有できること
それらを散りばめていることで監督が言いたいことがわからないわけではない。
文句もない。
ただ、
私たちは生まれる前にすでに天使に噛みつかれたから生まれてきたのではないかとは思えた。

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R41

3.5日韓ロードムービー

2024年6月15日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

本作みたいな感じで日本人と韓国人が仲良くできたらいいですよね。そりゃいろいろありますけど!海外に行ったら特に思います。昨今の映画業界からはそんな気概を感じます。

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ミカ