アンモナイトの目覚め

劇場公開日:

アンモナイトの目覚め

解説

ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンという当代きっての演技派女優が初共演し、19世紀イギリスを舞台に、異なる境遇の2人の女性が化石を通じてひかれあう姿を描いたドラマ。1840年代、イギリス南西部の海沿いの町ライム・レジス。人間嫌いの古生物学者メアリー・アニングは、世間とのつながりを絶ち、ひとりこの町で暮らしている。かつて彼女の発掘した化石が大発見として世間をにぎわせ、大英博物館に展示されたが、女性であるメアリーの名はすぐに世の中から忘れ去られた。今は土産物用のアンモナイトを発掘し、細々と生計を立てている彼女は、ひょんなことから裕福な化石収集家の妻シャーロットを数週間預かることになる。美しく可憐で、何もかもが正反対のシャーロットにいら立ち、冷たく突き放すメアリー。しかし、自分とあまりにかけ離れたシャーロットに、メアリーは次第にひかれていく。実在した女性古生物学者メアリーをウィンスレット、シャーロットをローナンが演じる。監督は初長編作「ゴッズ・オウン・カントリー」で、ひかれあう2人の青年の姿を繊細に描いて注目されたフランシス・リー。2020年・第73回カンヌ国際映画祭(新型コロナウイルス感染拡大のため通常開催を見送り)のオフィシャルセレクション作品。

2020年製作/117分/R15+/イギリス
原題または英題:Ammonite
配給:ギャガ
劇場公開日:2021年4月9日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第73回 カンヌ国際映画祭(2020年)

出品

カンヌレーベル「新人」
出品作品 フランシス・リー
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(C)The British Film Institute, The British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited 2019

映画レビュー

4.0また一つ、アンモナイト映画の傑作が…

2021年5月2日
iPhoneアプリから投稿

 そこに行き着くしかないエンディング。悲恋か、幸せの兆候か。思い出すたびに真逆の思いが浮かび、心がざわめく。アンモナイトを挟んで対峙する2人の姿が、とにかく美しいということだけは、揺らがない。  荒涼とした海辺で、アンモナイトを日々掘り出すメアリー。泥にまみれた仕事を終え、ごつごつとした身体をさらす。感情を押し殺し、心の奥底に抑えつけている分、彼女の振る舞いはひどく無防備だ。(アカデミー女優のこんな姿を見ていいのか、と躊躇われるほどだが、有無を言わせぬ迫力がある。)年老いた母と2人、単調で閉塞的な毎日を送っていた彼女の前に、華奢で可憐なシャーロットが突然現れる。当然、相容れない真逆のふたり。そんなふたりが心を通わせ、少しずつ距離を縮めていくほどに、上り詰めた後の行く末が気掛かりになってしまう。属する世界の違いすぎるふたりが、共に目指せる、共存できる場所はあるのか。  相手に心を寄せたぶん、互いを受け入れ共有しようとする。そんな心の動きが、本作では視覚から伝わってくる。重苦しい黒いドレスに丹念な巻き髪で登場したシャーロットが、次第に襟ぐりの大きい明るい色のドレスを軽やかに纏うようになる。さらには、綿のシャツにロングスカート、髪は編み込みでざくざく浜を歩く。一方、シャーロットを訪ねていくメアリーは、彼女なりに精一杯の身支度をするが、メイドに一瞥され、素っ気なく勝手口を案内されてしまう。何とか美しい調度品や蝶の標本で飾られた部屋に通されても、所在なく立ち尽くすばかり。再会に胸躍らせるシャーロットとの溝が、痛々しく伝わってくる。  人には、様々な面がある。関わる相手によって見せる面が違うし、その相手が見るものも微妙に異なるだろう。出会う場所、出会い方が別物であれば、と思うことは日常にあふれている。仕事上の付き合いでなければ、年齢がもっと近かったら、今ではない時と場所ならば。そんなことを考え始めると、自分は相手そのものをどれだけ知っているのかわからなくなっていくし、自分の相手への思いにも、確信が持てなくなってしまう。  そんな危ういふたりをしっかりと繋ぎ、互いへの眼差しに確信を与えてくれるのは、物言わぬアンモナイトだ。メアリーは、海を離れてシャーロットの許に身を寄せることはできない。シャーロットもまた、夫との生活を捨てることはできないだろう。けれども、アンモナイトを掘り出し、アンモナイトに見入るたび、ふたりは互いへの想いを確信するに違いない。  様々に進化を繰り返しながら、現代まで生命を繋いできたアンモナイト。彼らは、複雑かつ不可思議で、力強く、美しい。 (「東京公園」を久しぶりに観てアンモナイトが題材に使われていたことを思い出した直後に、たまたま本作を観た。当然、揺るがぬアンモナイト映画「勝手に震えてろ」も思い出され、また観返したくなった。)

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cma

4.0監督の前作『ゴッズ・オウン・カントリー』と見比べてみては?

2021年4月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

1840年代のイギリス南西部にある海辺の街で、海岸の岩場で見つけて来た石から丹念にアンモナイトを探し出し、それを店で販売して得た僅かな収入を糧に、年老いた母親と暮らしている独身の古生物学者、メアリー。そこに現れる化石収集家の夫から虐げられている若い妻のシャーロット。そんな2人がやがて惹かれあい、密かに愛を紡ぐことになる。13歳の時に重要な化石を発見しているメアリーは、今の時代ならばこの分野で幅広く尊敬される対象だが、19世紀の男性社会ではその偉大な功績も女性だからという理由で軽んじられているし、シャーロットが夫から受けている屈辱的な扱いは文字にするのも憚られるほどた。意外にも実在の人物がモデルだというメアリーとシャーロットに映画的な脚色を施し、性差別の実態を描きつつ、2人に愛を与えて救済しようと試みたのは、前作『ゴッズ・オウン・カントリー』(4月2日より再上映中)ではヨークシャーの牧場で出会った男たちの愛をテーマとして提示したフランシス・リーだ。2作は風景も見た後に残る後味も異なるが、厳しい現実に立ち向かっていく恋人たちを見守ろうとする監督の眼差しは同じだ。ただし、ユーモアが皆無な分、本作『アンモナイトの目覚め』の方が視線が冷ややかかもしれない。できればこの機会に見比べてみてはいかがだろうか。

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清藤秀人

4.5ウィンスレットとローナン、世代を代表する女優2人の気高く美しい共演

2021年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

萌える

40代の英女優ケイト・ウィンスレットと、20代のアイルランド女優シアーシャ・ローナン。ともに映画祭・映画賞常連であり、世代を代表する演技派というだけでなく、強い女性キャラクターをたびたび演じてきた点でも共通する(ここでの“強い”はフィジカルな面ではなくメンタルの傾向を指し、自立した女性や、自分らしい生き方を模索するヒロインという意味)。そんな2人が、19世紀イギリスの田舎町(当然ながら同性愛者が白い目で見られる時代)で、心の奥底に埋まっていた真実の愛に目覚める女性同士に扮するというだけでも感慨深いものがある。 ウィンスレットが演じるのは実在した古生物学者メアリー。ただし女性の地位が低かった時代、子供の頃に貴重な魚竜の化石の発見で注目されたものの、今では老母とわびしい2人暮らしで、海辺で発掘したアンモナイトの化石を土産品として売りどうにか生計を立てている。そんなメアリーのもとへ、裕福な化石収集家の夫に伴われてやってきたのが、ローナン扮する上流階級の可憐なシャーロット。モラハラ気味の夫との間に愛情はなく、籠の中の鳥(あるいはガラスコップの中の蛾)のような不自由と孤独を感じている。 年齢も生きてきた環境もかけ離れた2人が、反発、信頼、友情、嫉妬などさまざまな感情の揺らぎを経て、互いを求めあうようになるまでを、ウィンスレットとローナンが実に繊細に、そして時に大胆に表現している。岩場の斜面からの滑落、野外での放尿、ピアノ演奏、そしてラブシーンと、難しい場面もボディーダブルなしですべて2人が演じたといい、役者魂が伝わってくる逸話だ。自然光にこだわった撮影も素晴らしく、夜の屋内でのランプやろうそくの灯りで陰影が強調された映像などはキューブリックの「バリー・リンドン」を想起させもし、全編にわたり墨絵のようにしみじみと味わい深い美しさが印象に残った。 ただ本作がちょっと不幸なのは、製作がほぼ同時時期ながら公開年で先行されたフランス映画「燃ゆる女の肖像」と、題材がかなり似通ってしまったことだ。ジェンダー平等や多様性尊重の意識がない百年以上前の時代、専門職の苦労人とブルジョア娘の組み合わせ、海辺のロケーション等々。どちらもオリジナル脚本なので、偶然似てしまったのだろうが、「アデル、ブルーは熱い色」が2013年のカンヌでパルムドールを獲って以降、女性の同性愛を描く映画が賞を狙いやすく(したがって製作費も集まりやすく)なったという事情に加え、近年のMeToo運動など女性の地位向上やダイバーシティ重視の流れも影響していると思われる。

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高森 郁哉

4.0遅咲きの名監督の手で、2人のアカデミー賞常連女優の共演による化学反応が凄まじい美しさと儚さを放つ。

2021年4月9日
PCから投稿

本作を見て思ったのは「本当にシアーシャ・ローナン出演作には外れが少ない」ということです。 2007年の名作「つぐない」ではアカデミー助演女優賞をいきなり13歳でノミネートされ、凄い女優が現れた、と思っていたら、今やアカデミー賞の常連に。 そして、これまではシアーシャ・ローナンのことは「演技が上手い女優」という認識だけでしたが、本作を見た時に(タイプの女性ではないからか)「シアーシャ・ローナンって綺麗な女優だったのか」と気付きました。 本作は、フランシス・リー監督による丹念な撮影と映像美によって、あるがままを、よりリアルに映し出されています。 実は本作を予備知識なしの状態で見たので、主役の女優は誰だか気付かず、エンドロールを見て、「え、あのケイト・ウィンスレット?」と驚きました。 これは、「タイタニック」から24年、ということもあるのかもしれませんが、明らかにオーラを消した演技力でした。 本作は、1799年生まれのメアリー・アニングという実在の古生物学者をベースに描いていて、世間とのつながりを絶ち、土産物用のアンモナイトを発掘し、細々と生計を立てています。 そんな人生に疲れ切っている主人公をケイト・ウィンスレットが演じているのです。 しかも、本作は全てのシーンを出演者自らが演じています。 作風としては、2016年にアカデミー賞で話題になったケイト・ブランシェット×ルーニー・マーラの「キャロル」、もしくは2020年末公開の「燃ゆる女の肖像」に似たものがあります。 本作のフランシス・リー監督は遅咲きの監督ですが、これから更なる名作を生みだしそうです。 ラストは音楽も美しく想像力を掻き立てます。 意外だったのは、人によってラストの捉え方が全く違う点でした。先の事は誰にも分かりませんが、私は楽観的に捉えました。 このように見る人によって捉え方が大きく分かれるのも本作の深みでしょう。

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細野真宏