「「最低映画」鑑賞癖の自分でもダメでした」大怪獣のあとしまつ 荒川光線さんの映画レビュー(感想・評価)
「最低映画」鑑賞癖の自分でもダメでした
たしかあの「Plan9 from outer space」を観て以来、この手の「最低」映画を観る習慣がついている。
「ドラゴンボールEVOLUTION」も「ドラゴンクエストYourStory」も観た。
同じようにして今作も観た。
結果、こういう映画を観るのが、いかに悪趣味だと言うことを思い知った次第である。
怒っている。ものすごく怒っている。鑑賞日の翌日は朝まで寝られなかったほどである。
(と、同時に深い後悔と、自責の念がこみ上げてくる)
現在は鑑賞後1週間が経っているのでだいぶ怒りが収っているが、これでも今日まで怒っているのは「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」以来である。
役者の演技はいい、特撮も私の基準では及第点、主役の山田涼介が最後までヒーローポジだった。
加えて最初の20分はそれなりに見れた。
評価すべき点がいくつかあるので、私は最低評価をつけない。
しかし脚本がすべて足を引っ張っている。
私は特撮ファンではあるが、上記の経緯より「令和のデビルマン」の評価を聞き、怪獣映画やSF映画というよりは「最低映画」として鑑賞した。
たしかに上記の理由で「デビルマン」は言いすぎだと思うが、それでも破壊力は想像を遙かに上回った。
多くの評者の言うとおり安易な下ネタや、鮮度を当に過ぎた風刺(10年前ならともかく、今ごろ蓮舫ネタは無いだろう)は、腐敗した怪獣死体を思い起こさせる。
いや、観客を不快にする映画なら、それはそれでいいんだ。
怪獣の腐臭が観客にまで伝わり、嗚咽する観客が続出、と言うのなら却って私は高評価をつけていた。
そういう映画ではない。コメディのはずである。
それが笑えないってどういうこと?
これを作った三木監督の作風かも知れないが、それを知らずに観てしまった身としては、何もフォローは出来ない。そもそも映画を観るのに監督の名前で観るのは、その監督のファンぐらいしかいないだろう。
あの映画の内容だからこういう表現を使わせてもらうが、「ゲロ料理を出す店がある」と聞きつけ、ゲロに見せかけたもんじゃでも出すんじゃないかと店に行ったら、出された料理は本物のゲロだった。
店主が食べろというから口につけた。確かにうまいものを食ったあとのゲロで所々おいしい素材を使っているので消化不十分ながら舌に流れる。しかしどうも不可解な酸味があり、それがドレッシングなのか、胃酸なのか、それとも発酵した結果なのか判断がつかなかった。
しかし所詮、人体が生命の危機を感じ強制排出された物質であり、それをそのまま口にした結果、病院送りとなってしまった。
私はそういう映画だと思う。
だいぶ前のことだが、新宿在勤時に歌舞伎町近くで、誰かの嘔吐物をハトやスズメがつついていたのをよく見ていて、本当によく食べられるなと思ったが、私はあれをつつく勇気が無い。
オチも酷い。
ネタバレは避けるので詳細は言わないが、あのオチを使っていいのは中学生の自主映画までである。監督が特撮畑ではないとしても、プロは絶対に使ってはいけないオチである。
そういう意味でも中学生並みの監督と言わざるを得ない。
(そもそも権利関係はどうクリアしたのか?)
私は悪趣味を持つ一方で、真面目に邦画の未来には危機感を持っているので、最近でもアカデミー賞の各部門賞を受賞した作品があるという朗報が流れ期待をしているが、その一方で多額の資金をかけ、しかも文化庁経由で税金も投入された当作品のような駄作が大手を振っている現状と、その監督のファンのひいきの引き倒し(私は褒め殺しにも聞こえる)で弁護するという内輪ウケに我慢がならず、これが放置されるのであれば、残念ながら邦画の未来は暗いと言わざるを得ず、その結果、映画にかかる予算はいたずらに削られ、更なる作品の質が低下するという悪循環に陥るだろう。
私の今日まで続く怒りの内容は、あの脚本がなぜチェックを受けずに通ってしまったかという憤りである。普通の神経ならどこかでリジェクトすべき、いやコロナ禍で長期間撮影中止を余儀なくされたのであれば、脚本を見直す時間はあるはずだったが、なぜあのまま通ったのか、それとも見直しがあってああいう脚本だったのか?ここに邦画の病理があると思う。
まだ少額予算でコントのようなセットなら、あの映画の評価は変わっただろう。
でも、間違いなく今作はお金がかかった大作映画である。プロモーションやグッズ販売までもかかった一大プロジェクトである。それをあんな内容にしていいのか!
松竹・東映という大メジャー2社がかかわっていることにも病巣の根の深さは深いと言わざるを得ない。
私も随分ここで酷評した。
これを見て「そんなに酷い映画なのか、ならば却って見たくなった」と思った方。
そして実際に見た感想が「言われるほど酷い映画ではなかった」と思われるのかも知れない。
しかし一般料金1900円があれば何が出来るか。
おいしいものも食べられるでしょう。
人生の糧になる本も買えるでしょう。
もちろんもっといい映画を見ることも出来るでしょう。
でも、あなたが私のような好事家ではない限りは、無理してみる映画ではないでしょう。
賢明なあなただからこそ、無駄遣いはせぬようお願いいたします。
(2022/2/16追記)
オチについて。
なぜ最初から「デウス・エクス・マキナ」の力を使わなかったかということですが、実は半世紀以上前の初代ウルトラマン「小さな英雄」で既に回答が出ていることであり、また20年以上前に作られた「ウルトラマンガイア」のテーマの歌い出しにも使用されています。
レビューなどを読んでいると、三木監督を初めご存じの無い方が結構いらっしゃいますね。
でもご安心ください。映画を見るためには、必ずしもこういうことをあらかじめ頭に入れる必要はありません。
映画を見るために、その監督の作風を知らなくても良いのと同じように。
ただ作り手としては、やはりあのオチをコントでは無く怪獣をテーマとした作品で安易に使うのは、プロとしては失格と言わざるを得ません。
このレビューを書いてからまた少し時間が経ちました。
さすがに今では、「ドクターX」の番宣で西田敏行がでるとトラウマが再発するという状況からは脱しつつあります。
実は鑑賞中1度トイレに立っていますが、また戻っていったことから、やはり私の悪趣味は懲りないものだと思っています。
時間が出来たら、レビューを見た経過で登場し、まだ未見の「北京原人」でも見ようかと思っています。