精神0のレビュー・感想・評価
全11件を表示
老いをに向き合う
誰にでも老いはやってくる。仕事も辞めなければいけない。精神科医として患者に信頼されていた山本昌知氏の引退は、多くの人にとって心の支えを失うに等しいかもしれない。それぞれの患者との最後の診察は患者の不安と今までの感謝の気持ちが溢れている。本作は精神科医としての最後の日々をおくる山本氏と、妻の芳子さんとの静かな生活をメインに作られている。芳子さんは認知症をわずらっている。山本氏はそんな妻を優しく支え続ける。ただ、来客をもてなすだけ、お弁当を食べるだけのシーンもとても美しく感じられる。長年連れ添った2人の呼吸が美しいのだ。ラストのお墓参りのシーンは不思議と涙が溢れる。
老いとはどういうことか、人生の幕引きをどのように過ごすのか。それはいつか誰もが直面する問題だ。最後の時をこのように穏やかに過ごせる人生はきっと素晴らしいものに違いない。
山本先生は老いを感じて、引退するのではない。
山本先生は献身的な方で良い人である事は間違いない。しかし、この映画が山本先生の為だけにあるのではない。
『みんながよってたかって、いじめたり蹴落としたりする。あなた方は、そんな社会で、生きている。そこがすごいことなんじゃ』
この言葉を理解できれば、この先生が引退されても、良い社会に近づく事は出来る。逆に先生が引退されなくとも、良い社会になる事には残念ながらならなかった。山本先生が一番それを知っている。
山本先生は老いを感じて、引退するのではない。それを鑑賞者は理解しよう。
追伸 よしこ さん 僕の亡き母見たい。僕の親父はその後入ってきたメガネの親父。母はたいへんだったろうなぁ!と思う…よしこさんって奥さんか?!それは心配だね。でも、こんなやさしい旦那さんだから、彼女幸せだよ。
追記 山本先生は絵が好きなようで、ルオー『道化師』の複製画があった。
追追記 医者と言えども、不器用な人はいるんだ。老いじゃない。
でも、
墓参りに行く位の余裕があるのだから、山本先生はまだまだ仕事するんじゃないかなぁ?診療する姿よりも墓参りの方が大変そうに見えた。
夫婦の絆と老後の日々を想う
80歳を超えて引退する精神科医・山本さんと長年連れ添ってきた妻・芳子さん。山本さんの最後の診療の様子、山本さんと芳子さんのお茶の様子、芳子さんの女友だちとの会話の様子、最後のシーンは、ご先祖のお墓参りを夫婦で行く様子。途中で挟みこまれる昔の少し若いときのモノクロ映像。ワンカメで表情をぐっと寄せて撮り、息遣いの音も拾って、ドキュメンタリーのリアルさは十分伝わってきた。
観るものに老年になれば必ず訪れる衰えと、老後の日々を想わせる。夫婦っていいと思えるし、逆に、独りで老後を迎えることになることの侘しさを感じてしまう。
独り問題ってこれからの時代多いと思うし、独りで老後を迎えた人のドキュメンタリー、夫婦の絆のないバージョンのドキュメンタリーも撮ってほしいと思った。そのときのテーマは、何になるんだろう。
老いた認知症の妻を介護しながら医師を続けてた夫
認知症になった妻を介護しながら医師を続けてだけど、無理になって医師を辞めた夫のドキュメンタリー映画。
車も運転されてたけど、いつまで出来るのだろう。
そんなに遠くない今後のことを考えさせられる作品だった。
生き様を撮影するということ
「観察映画」初体験でした。
それは一言で言えば『ガチンコ勝負』
一般の映画は、何を見せるかをしっかりと練って提供する「プロレス」と同じエンターテインメント。
そしてこの映画は、リングとルールだけ与えられる中で闘う「総合格闘技」のようだ。
脚本が無く何が起こるか予想がつかない、だから監督ですらありのままを受けとめるだけではないだろうか。
前半は山本医師の素晴らしい精神科医としての姿が表現されている。
「病気ではなくて人を看る」
「本人の話に耳を傾ける」
「人薬(ひとぐすり)」
それらのモットーを表している小道具があった。
山本医師は事務用の「係長席」のような椅子に座られているが、患者はまるで「部長席」のようなどっしりと座れそうな椅子なのだ。決してパイプ椅子ではない。山本医師がワンダウン下がったポジションで、患者の話を傾聴していることが分かる。引退するには惜し過ぎるとやりとりから十二分に伝わってくる。
そして後半に入ると奥様が映り込んでくる。前作「精神」を観た人なら尚更感じるだろう違和感。山本医師を支え続けた姿から、先に「人生を降り始めた姿」が映される。そしてその妻を支えることに残りの人生を使うことを選んだ山本医師の覚悟がテーマの一つであることに気づくまでそう時間はかからない。
素晴らしい医師から一人の夫になる。
働く男ならあり得る姿だと、頭の片隅に入れておきたい。
そしてその時に山本昌知氏のように振る舞う備えはシェおきたいと思う。
フラットな自分
人として1番難しいこと
それは、あるがままを受け入れることかもしれません。
大概の人は、自身の不遇を嘆き
現実に抗い、追い詰められていく
山本さんは精神科医だから
わたしのような凡人とは違うから
出来るのかもしれませんが
でも、生きているだけで感謝する
あるがままを受け入れることは
大事なんだと思う。
心の有り様で人は変われる・・
そう、実感しました。
優しく冷たく誠実な眼差し
観察ドキュメンタリーを数多く見ている訳ではないけれど、想田ドキュメンタリーは相当に気に入っている。
今回も最初からかなり見入ったし、作り手と被写体との距離感というか空気感は、これまで以上に素晴らしく感じた。
あくまで撮る側は陰というスタンスを維持しつつ、カメラがあることを決して隠そうとすることなく、カメラ存在をリアルでナチュラルに構築されているところが毎回好感を持つ。今回も、カメラで撮っていれば対象はこうなるであろうことを素直に誠実に、それでいて冷徹に見つめていて、微笑ましくもあり悲しくもあり、感動的でもあった。
これまでの作品と違う点としては、かなり辛い気持ちで見つめたというところ。どうにもならないもどかしさ、悲劇的な方向へと向かっているベクトルをひしひしと感じて、見終わったときのわだかまりはかなり強いものだった。
映像だけで分かりやすく濃密な内容を伝えていることに素晴らしさを感じることは言わずもがな、無理にコントロールすることなく誠実に被写体を追った結果が凝縮されているこの構築物を眺めているだけでも非常に面白いと感じる映画だった。
長回しから浮き上がる色んな感情
私は想田監督のファンなので、
無条件に高評価してしまう部分は
あるかもしれません。
でも、こんな地味なドキュメンタリー映画を、
面白いと思ってしまうのは、
やっぱり監督の手腕だと思うんです。
もし、「長年精神科医療に携わってきた医師の引退と
それを影で支えた妻」みたいな切り口で5分番組を作ったら、
お菓子を出すのに手間取ったり、
おぼつかない足取りでお墓参りするシーンは
出てこなかったと思うんです。
あのじれったいシーンを見ながら、
色んなことを思うと思うんです。
パッとした派手さや面白さはないけど、
こちらが能動的に考える感じるところに、
想田映画の凄さはあるんですよね。
そして作品ごとの楽しみもありながら、
次はどんなテーマを突きつけてくれるのかという、
想田作品全体での楽しみがあるなーと思います。
最後に、この映画はコロナ期間に「仮設の映画館」で観ました。
自分だけではなく、映画業界全体の利益になるようなシステムを考えられるなんて、
彼はビジネスマンとしても優秀だし、
いいビジネスってこうゆうことだよなって思うんです。
時間を忘れてしまう。
【仮設の映画館】で鑑賞しました。
途中、何度か映像が止まってしまって歯痒かったのですが、作品そのものは『静かに流れる大切な時間』を共有させて頂き、気持ちを落ち着かせて頂きました。
この作品の前作【精神】も観たくなりました。
動画配信 仮設の映画館で観ました
精神というより、山本昌知先生夫妻の愛情物語の映画ですね。11年前の奥様の姿が所々に折り込まれ、この11年の年月を感じました。
ハラハラするシーンもありましたが、みた後、YouTubeで想田監督夫妻の仮設舞台挨拶を見ましたが、その中で、監督が自分が手を貸そうかと思ったこともあったが、それをやると
山本夫妻の日常が収められなくなるという言葉に納得しました。
町山智浩さんが、ハリウッド映画はここで笑いなさい、ここで泣きなさいが計算され尽くしているが、こういう映画はそれぞれがそれぞれの意識にその映画を
持ち込むと言われてたの、見終わってがらホント合点が行きました。
コロナが落ち着いたら劇場で公開するので来て欲しいと監督は言われてました。ぜひいきたいですが、コロナの終息が見えない今、動画配信の仮設映画という仕組み。1,800円を支払って半分が指定する
映画館に入る仕組みは、他の映画配給会社もやって良い公開方法だと思いました。
久々の新作映画。よかったなあ。
全11件を表示