「ホラーアクションに舵をきった続編」クワイエット・プレイス 破られた沈黙 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーアクションに舵をきった続編
奴らは泳げない…っていうのは安易な気がしたが、それでも全体的によく練られた脚本だと感心した。
そして何より、演出が巧みだ。
いわゆる前日譚を思わせるオープニングだが、平和だった町が何の説明もなく突如クリーチャーの襲撃にあったかと思うと、この時代の描写はそれで終わる。
そして、前作のエンディングから1年ほど経った時点に一気に飛んで物語は動き出す。
このオープニングは、ことの始まりを見せるというより、エメット(キリアン・マーフィー)というニューキャラクターのための布石だった。
前作と比べると人間ドラマは薄いが、エメットの葛藤が少しだけ描かれる。
勝手に出ていった長女リーガン(ミリセント・シモンズ)を連れ戻せと半ば脅迫ぎみにエヴリン(エミリー・ブラント)に迫られるエメットは、ある意味気の毒だ。親友の妻子かもしれないが、そもそもこの母子を助けるなんて言っておらず、むしろ出ていけと言っているのに、助けるべき者だなんて言われて葛藤する「好い人」なのだ。
子供たちはわずかな期間に逞しく成長している。
演者である子役が実際に成長しちゃってるのを逆手にとった設定と言える。
父親の決死の戦いを目の当たりにした子供たちは過酷な状況下で急成長したのだから、少し大人になったように見えても不思議ではない。
前作はエミリー・ブラントの熱演に圧倒されたが、本作は二人の子供たちが素晴らしい。
驚かしのテクニックは前作以上ではないかと思う。
クリーチャーの得体の知れない怖さが薄まっているので、ドカンと驚かす手段を多用しているのだが、オープニングシークェンスから終盤に至るまでショックシーンが絶妙に散りばめられていて刺激的だ。
そして、異なる複数の場所をシンクロさせて描く演出がうまい。
ラジオ放送を流している島にクリーチャーの弱点を知らせに行こうと、家族から一人離れて行動する長女リーガン。
怪我をした長男マーカス(ノア・ジュプ)のために薬を調達しようと、やはり一人で町に向かうエヴリン。
赤ん坊と二人で隠れ家に残されたマーカス。
この三者の行動を並行で描く演出が見事だ。
やがて、エメットはリーガンと合流して二人で島を目指すこととなり、エヴリンはマーカスのもとに戻るのだが、この2拠点それぞれで起きる試練の見せ方が実にうまい。
ジョン・クラシンスキー監督の演出には職人業を感じる。
他人を排除しようとする凶悪グループや、島という遮断された場所で平和に暮らすコミュニティなど、『ウォーキング・デッド』的な人間模様も描かれているが、そこに尺を割くのは勿体ないとばかりに、間髪いれす危機がやってきて、死ぬ役回りの人は無惨に死んでいく。
家族の絆を描いて見せた前作に対して、サバイバルアクションに特化した本作は、それはそれで面白い。
クラシンスキーには次回作のアイディアがあるらしいので、よりアクションを強めるのか、極限状況下のヒューマンドラマを見せるのか、期待しながら続編を待ちたい。