スキャンダル : 映画評論・批評
2020年2月11日更新
2020年2月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
まるでアクション場面のない戦争映画。パワフルで見応えのある“闘う女性映画”
原題は爆弾や砲弾を意味する“BOMBSHELL”。スキャンダルを発信するメディアのスクープのことを呼ぶ流行の“○○砲”の砲のことだ。魅力的な女性という裏の意味もある。
ここでぶっ放されるのは、全米で視聴率トップに君臨する保守系の大手ニュース専門局、FOXテレビで起きた、CEOによる女性キャスターたちへの衝撃のセクハラ・スキャンダル。2016年に起きた実話の映画化だ。
勇気を持って裁判を起こしたのは、CEOロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)の誘いを断ったことから干され、解雇された有名キャスター、グレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)。だが、この映画の本質は、悪質なセクハラを長年続けてきた業界の老害モンスターによるセクハラ事件の糾弾や成敗という、単純な部分にはない。
映画の中心人物はグレッチェンのライバルで、FOXニュースのトップ・キャスターの座にあるメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)。彼女は女性蔑視が顕著な大統領候補ドナルド・トランプを討論会番組で追及したことから、トランプの目の敵にされ、トランプ支持者の攻撃にさらされる中、かつてエイルズから受けたセクハラを公表すべきか苦悩する。
つまりこれは、2016年、ドナルド・トランプがまさかの躍進で大統領になってしまいそうな悪夢が現実のものとなろうとしていた当時を舞台に、弱肉強食の巨大メディアという戦場の最前線で、強く、美しく、知的な女性たちが、上司やライバルと繰り広げる過酷な激闘の日々を、まるでアクション場面のない格闘技映画や戦争映画のように、パワフルに描いた見応えのある“闘う女性映画”なのだ。
圧巻は特殊メイクで実在の本人ソックリになりきったセロンとキッドマンの白熱の演技合戦、野心家の新人を演じる絶好調マーゴット・ロビーも大健闘だ。そして、異様な迫力で欲望と権力の妖怪エイルズを演じて完璧なリスゴー。その醜い姿には、今年再選を狙うトランプがダブって見えてくる。
製作も兼ねるセロンをはじめ、作り手たちの本音もまさにそこにあるのだろう。この作品に込められた裏メッセージは、明らかに“嫌トランプ”だ。その意味でもこれは勇気ある必見作である。
「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」に続き2度目のアカデミー賞を受賞したカズ・ヒロによる特殊メイクがまた凄い。名優たちを実在の人物とうりふたつに変身させたその驚きの技術だけでも一見の価値がある。
(江戸木純)