劇場公開日 2020年6月5日

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「シンシア・エリヴォの圧倒的な存在感と歌唱力が魂を奮い立たせる!!」ハリエット バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シンシア・エリヴォの圧倒的な存在感と歌唱力が魂を奮い立たせる!!

2020年6月7日
PCから投稿

今作は、ミュージカル映画ではない。かつてバズ・ラーマン監督の『オーストラリア』が美術と演出、しかも主演はヒュー・ジャックマンということで、歌い出しそう詐欺をしていたが、今作でも歌い出しそうな雰囲気が全面的にあって、また歌い出しそう詐欺かと思えば、実際に歌うシーンもある。だったらミュージカル映画にしてもよかったと思うのは私だけだろうか。

奴隷にされていた黒人が仕事場や教会で歌うシーンというのは、様々な映画やドラマで描かれていたし、教育が満足にできなかったことで字を書くことも読むこともできない人たちにとって歌というのは、大きな意思疎通の手段であったこともあり、物語上で不自然ではないのだが、もっと聴かせてほしい…と思ってしまう。というのも主演のシンシア・エリヴォの圧倒的な歌唱力と迫力があるからなのだ。

シンシア・エリヴォという人物は、ただ者ではない。『シスターアクト(天使にラブ・ソングを…)』『I Can’t Sing! The X Factor Musical』などに出演していたミュージカル舞台女優であり、スピルバーグの映画としても知られる『カラーパープル』のミュージカル舞台版では、共演のジェニファー・ハドソンに負けずとも劣らない圧倒的歌唱力と演技でトニー賞を受賞している強者なのだ。

シンシアの顔にフォーカスが当たると、どうしても次のセリフが歌なのではないかという錯覚をさせられてしまうことこそが、彼女をキャスティングした理由ではないだろうか。内に秘めた勇気と決意がシンシアの表情とソウルフルなセリフ通して伝わってくるのだ。

黒人奴隷を解放に導いたハリエット・タブマンという、黒人にとって「母」のような存在を演じるというプレッシャーを跳ねのけて、堂々たる演技をみせており、物語の尺の都合上、ドラマ性や盛り上がりとしては、どうしても物足りない感じがしていまう部分をシンシアの演技によって、短い尺の中でも奴隷解放へと導くプロセスに圧倒的説得力をもたせている。

主題歌にもなっている「Stand Up」は映画史に残ると言っていいほどの名曲である。アカデミー賞では歌曲賞ノミネートされた。予告編で「Stand Up」を聴いたことで映画を観たいと心動かされた人も少なくないのではないだろうか。

この「Stand Up」には、内なるものを奮い立たせる力強さがあり、それをシンシアが歌い、演じることでハリエット・タブマンの壮絶な人生がリンクするという構造は見事!!

今作は題材が題材なだけに、黒人中心に描かれている様にも思えるのだが、実は奴隷として扱っていた白人側の視点も描かれているのだ。

中でも象徴的なのが、ハリエット達を奴隷にしていた家の息子であるギデオンの視点だ。ギデオンは13歳で病気にかかった際に、ハリエットが神に願っていた姿を見てから、その光景が忘れられないでいた。

ギデオンも小さい頃から黒人は奴隷で所有物であるとインプットされてきたことで、ハリエットを捕まえようとしている宿敵のような描かれ方をしているが、実はそれが一種の「恋」による執着であることに、時代的概念によって、ギデオン自身が気づくことも、気づいたとしても表の感情に出すことできず、決して交わることのない価値観と感情が切ない。

最終決戦でみせたギデオンの表情が全てを物語っており、演じたジョー・アルウィンの表情でみせる演技が『女王陛下のお気に入り』『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』同様に今回も炸裂しているのだ。

バフィー吉川(Buffys Movie)