劇場公開日 2020年2月14日

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1917 命をかけた伝令 : 映画評論・批評

2020年2月4日更新

2020年2月14日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

スケール、緊迫、没入感。戦争活劇を刷新する驚異の長回し映像を体験せよ

これはかつてない戦場の疑似体験だ。観客は英軍の若き伝令兵たちをリアルタイムで追う長回し映像を通じて、塹壕、無人地帯、廃墟の町、そしてドイツ軍と対峙する最前線を“ともに駆け抜ける”感覚を味わう。

実際に第1次世界大戦の英軍で伝令兵だった祖父の体験談から、本作「1917 命をかけた伝令」の着想を得たのは名匠サム・メンデス。撮影監督には「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」「007 スカイフォール」でも組んだロジャー・ディーキンス(「ブレードランナー 2049」で2018年のアカデミー賞撮影賞を受賞)を起用し、4K強の解像度を持つ新開発の小型カメラ「アレクサ・ミニLF」とステディカム、クレーン、ワイヤーを巧みに組み合わせ、兵士たちの息遣いが伝わるクローズアップから地を這い天を舞うように自在な移動ショットまで、まるで全編がワンカットで撮影されたかのような驚異の映像を完成させた。

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舞台は1917年、西部戦線。英軍の後方部隊は航空写真により、前線から撤退したと思われたドイツ軍が大規模な砲兵隊で待ち構えていることを知る。最前線の1600人の友軍に、突撃予定の翌朝までに作戦中止を伝えなければ全滅してしまう。通信手段が絶たれた状況で、地図を読むのが得意なブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)と、たまたまブレイクに選ばれたスコフィールド(ジョージ・マッケイ)が、伝令の任務を命じられる。前線には実兄もいることから一刻を争うブレイクと、爆弾のトラップや狙撃の危険を恐れ慎重に進みたいスコフィールド。この微妙な温度差が、中盤以降の展開に活きてくる。比較的知名度の低い若手俳優2人をキャスティングしたのは、話の先を読ませない狙いもあっただろう。

有名スターが演じない効用はもう一つ、2人が私たちと変わらない普通の人間だと感じやすい点。戦場で朽ちかけた死体に飛び上がり、狙撃される恐怖におびえ、桜の花を見ては故郷の果樹園と家族を想う。普通の若者だと信じられるからこそ、極限状況で勇気を振り絞る彼らに感情移入する観客の体感度も一層増すのだ。なお第1次大戦つながりで、ピーター・ジャクソン監督のドキュメンタリー「彼らは生きていた」も日本で先月公開された。こちらは当時のアーカイブ映像を修復し着色して製作したものだが、やはり英国の若者たちが志願して兵士となり、前線に派遣されるという構成になっている。2作を合わせて観ると、軍隊に入り戦場に赴くということがどういう体験なのか、より深く考えさせられることになるだろう。

高森郁哉

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