「「どうせ"努力"、"友情"、"勝利"のジャンプ漫画映画だろw」と嘲笑ってたかつての自分を、昇り炎天で真っ二つにしたくなる傑作。」劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
「どうせ"努力"、"友情"、"勝利"のジャンプ漫画映画だろw」と嘲笑ってたかつての自分を、昇り炎天で真っ二つにしたくなる傑作。
原作もアニメもほとんど未見のまま鑑賞。ジャンプ漫画原作の典型的なヒーロー作品だろうと思って見始めたら、冒頭の墓所の風景に驚愕。木洩れ日の揺らぎを緻密に描いた描写が美しすぎる…。そしてぐいぐいと物語に引き込まれることに。
もちろん世界観や人物像に関する知識が殆どないため、『柱』は何で、『鬼殺隊』がどのような組織なのか、そもそも本作の時代設定はいつなのか、とかの具体的な情報までは理解できていないままの鑑賞となったのですが、人物の仕草や台詞、立ち振る舞いで、前知識のない観客でも大枠を理解させてしまう演出力は素晴らしいです。同じジャンプ原作の『ジョ(ごほんごほん)』の他に、映画『インタビュー・ウィ(げほんげほん)』などの前知識が、脳内補完に役立ちました。
本作はテレビシリーズと地続きと言うことで、本作は状況の説明もなくいきなり列車の中で鬼に襲われる状況になります。一見すると不親切な演出ですが、これだけ思いっきり良く説明を省略して、映像だけで理解させてしまう手腕には、むしろとても好感を持ちました(公開中の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』も同様ですね)。例えば今年公開された映画『ダウントン・アビー』、『荒野のコトブキ飛行隊』などには、冒頭にあらすじを解説する映像が挿入されています。これは確かに初見の観客に対する親切ではあるのですが、一方で何だか映画の見所まで予め指示されているような気になってしまうし、なにより映画のテンポが狂ってしまいます。そのため「映画の見所は自分で見つけるからいいよ!」と言いたくなることも。本作はこの省略の仕方が非常に洗練されていると感じました。
もちろんジャンプ漫画の鉄則とも言える「努力」「友情」「勝利」は、本作でも重要な要素なのですが、ここに「永遠(不死)」と「有限(死)」の対立という概念が分かちがたく入り込むことで、物語は生き生きと、かつ悲壮感を伴ったものになります。
「鬼」は不死であり再生可能な存在である一方で、「鬼殺隊」の名うての剣士であっても、人間であるが故にその肉体は脆く、いつか死を迎えなければならない運命にあります。つまり人間側は、鬼と戦う上で元々非常に分の悪い戦いを強いられているのです。こうした非情な状況にあって、単に努力や友情の大切さを謳っても、それで得られる勝利に説得力を与えることは難しいでしょう。ではどうやって物語を紡いでいくのか。本作が結末に示した一つの回答は、使命や覚悟の重みを踏まえたものとして、とても心揺さぶられます。
初週興行成績が日本国内において新記録となっただけでなく、世界的に見ても刮目するべき興行的成功を続けている本作ですが、その要因はコロナ渦という状況だけでなく、こうした物語的な深さが主要因であろうと考えます。
本作を観てようやく、原作とアニメシリーズを鑑賞する決意が固まりました。これから楽しみです。