わたしの叔父さんのレビュー・感想・評価
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【行間/沈黙】
二人の会話の行間のような沈黙の場面には、多くの言葉が詰まっている。
恵比寿ガーデンシネマが、恵比寿三越の閉店に伴うガーデンプレイスの改装で、2月末に一時閉館となる。
その前のロードショーの最後の一本だ。
ピーターゼン監督が寄せた挨拶の映像が映されるのだけれど、「閉館は残念なことだが…」と、いやいや、一時休館なんだから、そんなこと言わないでと😁。
映画に戻ります。
背景にある、クリスの兄弟の死と、後を追う父親の自殺という大きな事件や、クリスが獣医を目指していた事、叔父さんの病気の事なども、ほんの少し会話の中で語られるだけで、過去は遠くに封じ込められている。
二人の沈黙は、会話のない会話だ。
そう考えると、これは、やはり、小津安二郎へのオマージュのような気もしてくる。
そして、この沈黙は、実は饒舌なのではないか。
二人が見せる葛藤や、強い意志、決意…、思いやり、優しさ。
最後の場面、クリスと叔父さんの行く末は、観る側に委ねられているのだ。
自分の人生と照らし合わせて、一人ひとり違う未来が見えているのに違いないのだ。
眠気と戦いながら。
全編を通して音楽もなくセリフも少なく、淡々と日常が描かれている。特に冒頭は眠くて眠くて、、。
叔父さんとクリスとの生活に些細なユーモアやふふっと笑ってしまうような出来事が非常に愛らしく感じる。
他者から見たら縛られていて不自由に思える生活も、クリスにとっては自ら選んだ道であった。叔父さんが何よりも大切で共に暮らすことがクリスにとっての幸せなのだろう。
眠気と戦いながらも、観てよかった。
年月の重み
正直言って、110分もある映画なのに、「これだけ?これで終わり?」だった。
記憶違いかもしれないが、「12年間で寝坊は初めて」という叔父の台詞があったと思う。
その長きにわたって、叔父と暮らしてきた、そして、酪農家として生きてきたという、“年月の重み”が、クリスの選択を決定したということなのだろう。
獣医もマイクも、いや、叔父ですら、クリスの姿に対して否定的に見えるのだが・・・。
単純だが、深いテーマであった。
その他、「酪農王国デンマーク」の実態が、少し垣間見えたのは興味深かった。
また、G20での抗議デモから北朝鮮のミサイルまで、時勢とは無縁な田舎の酪農家が、テレビで世界のニュースを見ているシーンは、なぜか“ほのぼの”していて面白かった。
派手さはないが...
最小限に抑えたセリフと音楽。
同じことが繰り返される日々の中、時折変化する生活と主人公の気持ち。地味な主人公がハッとするほど美しくなる瞬間はキャスティングの素晴らしさか。
派手さは全くない映画だが、美しい風景とともにじんわり心に沁みてくる。
ハマスホイの絵画の世界を見たような
凛として生きる女性の日常の、ぴったりとパズルがはまっていくような営みの描写が好きだ。(「シェープオブウオーター」の時もそうだった。あれも地味目な映画だった。)なので、冒頭から惹きつけられた。しかも、その明るくないが美しい寝室の設えのカットを見て、平原と大空と光の静止画を見て、「ああこれは昨年コロナのために展覧会が中断してしまい残念ながら本物を見れなかったデンマークの画家「ハマスホイ」の世界だと自己満足。
北朝鮮の核実験ニュースが聞こえてくるまでは80−90年代の話かと思ってしまった。あまりに時が止まったような生活ぶりに。登場人物も少なくて、小規模酪農とはいえ牛や豚の数の多さが印象的だった。
密室のような村で、特殊な事情を抱えた主人公の周りで起こる話でありながら、テーマや随所のディテールは普遍的。パンにはヌテラ、初デートを申し込まれたときに感じる軽い動機の懐かしさ、コテで作ったカールヘアの華やかさ。そして印象的だったのは体の不自由な叔父を心配する彼女の態度・心情・言葉遣いがまるで「お母さん」のそれになっていたことだ。きっと二人は「親離れ・子離れ」するのだと思う、近い将来。どんな形であれ。
画は口ほどにものを言う
まるで絵本のような映画だ。
全編ほぼセリフも音楽もなく、淡々とわたしと叔父さんの日常が繰り返されていく。ドキュメンタリーのよう。普通だったら他人からしたら退屈な映像のはずが、何気ないやりとりからふたりの関係がにじみ出てきて身近で微笑ましくなる。そうだ、本来人間同士が織りなすリアルこそがドラマなのだ。事実は小説よりも奇なり。
それもそのはず。ふたりは実の叔父と姪らしい。そしてその叔父さんが実際に生活している農場で撮影したようで、飾らない現実がそこにはある。
現実と理想、身寄りへの愛情と自由への羨望との間のジレンマを佇まいだけで見事に描いている。
良くも悪くも東京国際映画祭のグランプリらしい作品で、チャレンジングなアプローチで称賛に値するものだとは思う。ただ…こういう系は賛否両論か評価が高くなりやすいが、こういう映画も必要だと思いつつ、素直にやっぱり自分はもっと分かりやすくて純粋に楽しめるエンターテインメントを求めてしまう。
でもどうしてもいつもハリウッドか邦画に落ち着きやすい映画事情に、幅広い可能性という一石を投じてくれる貴重な機会として毎年この映画祭を楽しみにしている。
2019 32nd TIFF
笑いながら泣いた。
このタイトルが示すとおり、名コメディ映画の如く、味わいある笑いを含んだ作品だった。
介護をテーマ?農業問題?恋愛もの?この映画に対してあらゆるレッテルを貼ろうと必死に思いを巡らしたけれど、その思いをすべて優しく包み込みながら、ポイッと捨てられてしまうような面白さ、内容の深さが想像以上で、印象的なエンディングを迎えてなおかつ、頭の中ではその続きを勝手に夢想してしまった。
映像も素晴らしくて、遠景の自然美にはことごとく魅せられたら。
主演の彼女と登場する叔父さんは実際の叔父と姪だという。どうりであの反発しながらも互いを信頼している自然な雰囲気を作り出せているはずだ。あの言い争いや優しさは、恐らく実際の生活において、どこかしらで目にする光景なのではなかろうか。それぐらいナチュラルで、心を揺さぶる。
こんな素晴らしい作品のワールドプレミアを見ることが出来て、大変光栄だ。これはデンマークの一部の問題とかテーマであるかのようで、非常にワールドワイドな事柄だと思うので、世界中で受け入れられていくことを切に願うばかり。
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