「ナイナイの思い出」フェアウェル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ナイナイの思い出
開幕の文字が不思議。
“実際にあったウソに基づく”。
普通だったら、“実話に基づく”。
でも、見て納得。最後の最後。何て心温まる“ウソ”。
幼い頃に両親とアメリカに渡った中国人女性のビリー。
以来ずっとアメリカで暮らしているが、中国のナイナイ(おばあちゃん)が大好き。よく電話で話している。
そんなある日…
ナイナイがステージ4の肺がん。余命僅か。
最後にどうしてもナイナイと会いたい。両親の反対を押し切って、間もなく結婚する従兄の式出席を口実に、久し振りに中国へ。ナイナイに会いに…。
これだけなら最後に悲しい別れがあるのは分かってても、ひと時だけでもナイナイや中国の親族との交流を描いたハートフル・ドラマなのだが…、
困った問題が。
勿論、ナイナイとの再会は心底嬉しい。
が、ビリーは思ってる事がすぐ表情に出てしまう。終始、優れない表情。
長旅の疲れか、それとも今アメリカで仕事の事で悩んでいるそれか。
本当はこっちが心配してあげなきゃいけないのに、逆に心労掛けてる。何してるんだろう、私…。
でも、やっぱり優しいナイナイ。
で、困った問題というのが親族との意見の対立。
余命宣告。
ビリーは言うべきだと主張。アメリカではそれが当たり前。寧ろ、言わない方が違法さえにもなるという(!)。
しかし親族は頑なに隠し通すと主張。中国では助からない病は相手に教えない伝統があるという。言って、ショックを受けて、もし病がさらに進行でもしたら…。
どちらの意見も分かる気がする。
ちなみにまた自分の実体験になるが…、
母は死期が迫った時、宣告して欲しいと言った。その方が身の回りの整理や覚悟も出来るから。
分かった…と言いつつ、その時が来たら、結局出来なかった。医師に止められたからもあるけれど、やはり口が開かなくて。それに母の場合、急な事でもあったし。
東洋人はそうなのかなぁ…。
本作はファミリー・ドラマだけど、東洋/西洋の価値観について深くも考えさせされる。
今、広くグローバル化されている世界。
間違いなくいい事だ。異なる文化同士、交流を深める事は。
でもその時どうしても価値観の違いも出てくる。
それがちょっとした生活レベルならまだしも、国際問題レベルならとんでもない事に成りかねない。
だからこそ、話し合う事、相手を寛容に受け入れる事が何よりも大事になってくる。
この家族はまるで縮図だ。
中国の親族を中心に、アメリカで暮らす孫娘、日本人女性と結婚する従兄…と、実にグローバル。
でもそこで、それぞれの国事情がチクチクと。
「中国には戻って来ないの?」
「アメリカの何処がいいの?」
ある会食での事なのだが、会食というより国際問答みたい。
同時にこれは、誰もが必ず経験ある親族が集った一場面でもある。
「○○には戻って来ないの?」
「東京の何処がいいの?」
東洋/西洋の価値観の違い、グローバル…なんて言うとちと小難しそうだが、これを親族間に置き換えると、何だ、とても身近に感じるではないか。
仕事やプライベート事情については共通してるけど。
よくある親戚のおじさん/おばさんが言う、「結婚は?」「いい人はいるのか?」。
監督のルル・ワンと主演のオークワフィナ。
この2人には共通点が。
共に中国で生まれ、アメリカに渡って育った、中国系アメリカ人。
東洋人でもあり、西洋人でもある、二つの文化に挟まれた悩み。
端から見れば“異邦人”。さらに、女性。アメリカ社会で生きる厳しさ。
そのリアリティー、体現。
ルル・ワンは実体験に基づき、家族ドラマの十八番である笑い、辛口、感動、ハートフルを巧みに、そこに文化の違いを絡ませつつ、演出や映像面でも印象に残るものを魅せている。また同じアジア人として、是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』を彷彿させるようなものを感じた。
オークワフィナも新境地! いつものハイテンション・コメディ演技は抑え、悩みを抱えた孫娘を繊細に、絶品の演技派の面を披露。こりゃいずれオスカーノミネートも…いや、本作でもゴールデン・グローブ賞を受賞し、オスカーノミネートされても良かった。
家族を演じた面々も適材適所。見た事ある顔もあれば、お初の顔も。リアル家族にしか見えない!
そんな中で、大黒柱は言うまでもないだろう。
ナイナイ。
演じたのは、チャオ・シュウチェン。
全く知らない。が、中国では有名な大女優だとか。
納得だ。
登場した時から作品をずっと締める存在感。
何もそれは圧倒的、堂々たるだけじゃない。
時にユーモラス。時に温かく。
時に病魔が忍び寄り、影も持って…。
ナイナイの一言一言が為になる。
そして、何よりラストシーン。本当はナイナイは自分の病気の事を知っていたのではなかろうか。知っていて、家族の“嘘”に騙されたフリをしていたのではないだろうか。
ビリーを見送って涙するシーンで、そう感じた。
皆々、ナイナイの大きな大きな、温かい温かい、愛に包まれて。
本作の“嘘”というのは、ナイナイに会う為親族が集い、悟られないよう、従兄の結婚を繰り上げでっち上げる…というもの。(人の良さそうな従兄、気の毒…)
でも自分的には、レビュー始め。先述した通り。
おそらく、“劇中”のナイナイは亡くなったろう。
が、監督ルル・ワンの“実際”のナイナイは…。
余命宣告を受けてからも…。
あ~良かった。
本当にこれは、“実際にあったウソ”。
とっても素敵な、心温まる。
今中国と言えば、何かと国際事情やコロナの事で問題に上げられる。
でも、一人一人は、我々と同じ。
私と家族とナイナイの思い出。
最初に、
“実際にあった嘘に基づく”
気がつきませんでした。
ラストにあった、
ナイナイおばあちゃんはその後も生きている・・・の記述も
もしかしたら、嘘?
読みが深いですね。
目から鱗・・・のレビューでした。