「色のない稀有な映画体験」異端の鳥 Pegasusさんの映画レビュー(感想・評価)
色のない稀有な映画体験
手放しで傑作とは言えないが、とてつもない問題作であることだけは確か。
ホロコーストを逃れ生きるために村を訪れては差別と迫害を繰り返される少年の姿を描いた作品。
この作品、迫害がメインテーマじゃなくて、「生存本能の副産物」がメインテーマ。
生きるためならなんだってやる人の行動や、生きるために我慢してきた欲をどういう形で爆発させるのかを描いていると感じた。
ある人は、迫害。
ある人は、暴力。
ある人は、誘惑。
ある人は、救命。
ある人は、戦争。
それぞれが生き延びるための果ての姿。
そこには善悪もなければ、色彩もない。
そんな人間の本能に「名もなき少年」は打ちのめされていく。
家族も名前も自分自身も分からなくなる程に。
ヴェネチア映画祭で退場者続出と聞いていたので、グロを覚悟していたが白黒だしグロくはない。
ただとにかく痛々しくてとにかく惨い。
割と真面目に主演の子を心配するし、監督の果てなきこだわりも伝わってくる。
この作品を作り切った制作陣は本当に素晴らしいし、この作品を演じきった主演の子の根性がトンデモない。
作中では感動しなかったけど、エンドロールで制作陣を観てると何故かウルッときた。
とてつもなく残虐な人間の姿を捉えたモノクローム169分。
これは覚悟してでも観る価値あります。
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