異端の鳥のレビュー・感想・評価
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大変な傑作
35ミリフィルムのモノクロームのシネスコの映像は美しい。しかし、その美しい映像が照らし出すものはひたすらに残虐で醜い。これは人間の残虐な本性についての映像詩だ。人間に対しては口を聞かない主人公の少年は、ナチスの手から逃れるためにあてのない旅を続ける。彼が目の当たりにするものは、生き延びるためにはどんな残酷なこともいとわない人間たちの痴態だ。男も女も関係ない、ここには人間普遍の醜さがこれでもかと連続して描かれる。
しかし、本作は悪趣味な見世物とならない。この映画は観客を安全な立ち位置に置かない。お前も同じだと終始突きつける。ここに描かれた人々は、時には善良な小市民である。元々人間とはこういうものなのだと、人は生きるために残忍さを引き受けなくてはならない時があると冷徹に示しているのだ。
この映画はたしかに不快である。しかし、人の心に傷をつけ、意識を変えるのが本来のアートだ。まぎれもなく一級品のアートである。不快であっても目が離せない、観終わった後には世界が変わって見える傑作だ。
言葉の削減とモノクロ映像は“引き算の美学”
169分の長尺ではあるが、原作と比較するとかなり情報を間引いて整理しており、それが奏功している。少年の視点で綴られた小説は、地の文で彼の内声が記され、前半までは会話もする(都会育ちの少年の言葉が、疎開先で田舎者から攻撃される一因になる)。一方で映画の少年はほとんど言葉を発しない。これが観客の想像の余地を広げ、各自の経験や知識に重ねて感情移入する助けになる。
モノクロ映像が選択されたことの大きな利点は、原作で地域の住民と異なるとされた少年の瞳と髪と肌の色に関し、映画ではさほど差異が目立たないこと。大して違わないのになぜそこまで虐め攻撃するのかと、差別と暴力の理不尽さを強調する効果が生まれた。もちろん、墨絵に通じる省略の美、余白の味も認められる。
ナチスの戦争犯罪やユダヤ人迫害にフォーカスするのではなく、普通の人々の罪を提示したこと、そして少年自身の変容を描いたことにも喝采を送りたい。
異質なものに対する差別を痛々しく描く
なかなかしんどい映画でした。人によっては見るに堪えないシーンが満載ですが、これが人間なんだよ!という人間の本質をえぐってきます。目を覆いたくなるシーンが多く映像はモノクロなのに風景が映ると美しい。音楽なし主役の少年のセリフもほぼ無し。そして極めつけは169分という長丁場…。
一番の辛い理由は、その差別や迫害を受けるのがすべて1人の無垢であっただろう少年なのです。少年が様々な辛い経験を経て、変わっていく心理や行動をみているのは、本当に辛いものがありました。少年はいったい何を信じればいいのだろう。
本作で描くは一貫して異質なものに対する差別でした。容姿や肌の色の違いで標的にされるのです。
この映画で驚いたのは主演の子役の ペトル・コラールです。驚異の新人と言われてるように、全くの新人であったから驚きです。こんな辛くて重い役を見事に演じ切っています。
そしてもっと驚いたことは、まったく無名の監督による映画だということです。無名の監督が、11年の歳月をかけて、無名の幼い少年を主演としつつ、豪華な俳優を短い時間で出演させて、問題作と呼ばれつつも最終的には数多くの映画賞を受賞したという快挙なんですよね。いや~。これからも監督がどういう映画を作ってくれるんだろうと、否が応でも今後も期待させてくれます。
重い…しかし素晴らしい
人間の残虐さや醜悪さを見せつけられる映画です。クソみたいな世界の中で健気に生き延びる少年の姿が心に痛いです。
そして画面の構図がどれもカッコいいです。
ホロコーストから逃れる少年への差別を成長を通して描く 色違いの鳥が...
ホロコーストから逃れる少年への差別を成長を通して描く
色違いの鳥が仲間に攻撃されて死ぬのとそれを楽しむ人の残酷さ
戦車がT-34なところを見ると少年を助けているのが旧ソ連軍だと思うのだけど昨今の情勢を考えるとなんともいえない感情にウクライナも含めた合作なのに
インタースラーヴィクという人工言語も初めて知った
エンディング曲がルドミラ役の人が歌ってて余韻を深める
言葉にできない
素晴らしい映画だった。
目を覆いたくなる程ショックな映像やシーンが大半なので心苦しかった。
でもなんとなく途中で辞めてはいけないと思い見終わった。
自分の表現力がないせいで良さを伝えられないのが悔しい
それほどまでに素晴らしい映画だった
異端を排除するという人間本来の醜さ
最初、何故叔母の家に預けられていたのかを知らずに観始めてしまったので、訳が分からなかったが、最後のシーンで、ナチスからの迫害を恐れた両親が叔母の家に息子を疎開させたというので納得。
そのたった一人の頼れる身内である叔母のところに居ても、近くの子ども達から殴られ、叔母の突然の死から、自宅を目指して始まる少年の大冒険。
と書けば楽しそうにも、また良い人にも出会えそうな気にもなるが、この映画で出会うのはほとんど醜い人間の性をさらけ出した人ばかり。
行く先々の村で、醜い人間の性を見せつけられ、迫害を受けながらも生き延びて移動していく少年。
優しかったのは亡くなるまでの神父様と、途中であった兵だけ。
その兵から教わったことは「目には目を。歯には歯を。」
きっと最初は純粋だった少年の心は旅を続ける中で蝕まれ、その兵の言葉が心に残り、旅のおわり、孤児院に収容される頃には少年の心はすっかり荒み、旅を始める時とは全くの別人核になってしまっている。
最終的に迎えに来た父親にも背を向け、バスに揺られる姿は、戦争というよりも、人間の醜さに翻弄された少年の悲しさを映し出す。
ほぼ3時間という時間、ただただ醜い人間の性を見続けないといけないのは辛い限り。
またモノクロの映像が余計に寂しさ、侘しさ、辛さ、そして異端を徹底的に排除するという、人間が本来持つ醜さを浮き彫りにしている。
観る価値が無いとは言えない映画だと思う。
映像美と過酷な戦時下
ユダヤ人の少年がナチスから逃れつつ、いく先々で凄惨な目に遭う映画。
全編モノクロかつBGMも無い。
"主人公の少年"を描くというよりかは"少年にスポットライトを当てている"という感じで、ありのままの事実を誰にも肩入れせずに映し出しているため非常に淡々とした印象を受ける。
派手さは無いが、3時間飽きずに見る事が出来る。映像に過不足が無く、誰が何処で何をしているかがはっきりと分かりやすく、まるで自分が透明人間になってその場にいるかのような臨場感が感じられる。
映像作品としてレベルが高いと思った。
この映画を観終えて真っ先に感じた事は「人の善意」についてだ。
少年はたどり着いた全ての村で暴力を受けたり、人としての扱いをされなかったり、本当に本当に酷い目に遭う。そして、ストレスで発語能力を失い、大人しい性格だったのが暴力的に変貌していき、ついには人を殺すようにまでなってしまう。
その後、父と再開を果たし、いっしょに家に帰ろうと促されるも、自分をこんな目にあわせておいて何だ!!と激昂する。
家に帰るためのバスに乗り、不貞腐れる少年。
意地でも父と視線を合わせまいとしていたが、居眠りする父をこっとり見ると、腕に収容所の識別番号が刻印されていることに気づく。
父は少年のためを思って彼を疎開に出した。そして父もまた、収容所で壮絶な生活を送っていたのだった。
少年がバスの窓に指で自分の名前を書く。
もう一度人を信じる事を思い出し、自分の人生を歩んでいくのかな、そう思わせるラストだ。
人の本性は野蛮なものだ。
本来は自分の欲望のためなら平気で人を傷つけるのが人間だ。
それでも、過酷な戦時下でも人への思いやりを失わなかった人達がいる。
この過酷で絶望的なモノクロの世界の中で、揺るぎない人の想いだけが暖かな色彩をもっているかのように見えた。
胸糞映画かもしれないが、ラストは明るいと思うのでオススメです。
年齢不詳映画
50年代の映画かと思うほど冗長
白黒だし
PRIJEO TESIPRO ME 迎えに来て。
内容は、イコジー・コンシンスキの同名の原作小説を11年の構想の末に映像化に結びつける事が出来た映像作品。時代背景と場所は特定されない様にナチスドイツ下の東欧の何処か。10歳程の少年が親から離れ国を跨いで生き延びるスペクタクルでエキセントリックな作品。好きな言葉は『はい!叔母さん!』唯一無二の言葉は人に対して主人公少年がそれ以後口を塞いで、心を閉ざす始まりとなる。『怖がらないで、僕が助けてあげる』馬に対して話し掛ける言葉は、ある種主人公が死ぬ事は救いだと心の奥で望んでいる様にも見えた。非常に静かな映画の中は白黒で表現されていて、カラーだと生々しくて見てられないと思うほどの良い判断だと感じました。ひたすら逃げ惑う少年が段々とこころを閉ざしていく様は観ていて見応えがあります。好きな場面は、冒頭で叔母さんにエリーゼのためにを🎹弾いて聞かし、叔母さんは幼くして子供を置いていかざるをえなかった夫婦と残された子供の事を芯から共感し悲しんでいる様に見えました。だからまだ言葉が喋れ意思表示が出来てたのだと思います。迎えに来てと両親に向けて出す帆船型の帆には自分を含めた家族と空からのバイオリン🎻とも言われる日差しが描かれて希望を期待している所がとても複雑。インタースラーヴィク語と言う人造語を初めて取り入れた画期的作品は、随所に静かさ・無常観・寂寥感・閉塞感が言葉無い映像と息遣いから伝わってきます。英題『the printed bird』自由の象徴である鳥も自由でなく色分けされたこの世界の構造を上手く表してるなと感じました。ハリウッドの三幕構成とは違う作りになっているので観る人は退屈するかも知れませんが美しく残酷で激しく穏やかな素晴らしい作品に出会えて良かったです。実際の所は、何回か寝落ちしてしまいましたが…。
戦いは民族対民族ではなく、権力者対権力者なのだと思う
一年くらい前にTOHOシネマ川崎で見た。
今回、配信されていたので、3回目の鑑賞になる。
原作も読んでみた。映画と原作に微妙な違いがあると思う。
別の作品として扱えると思えた。
一つだけ注意しなければならない事は、ここで、主人公を虐げるのは、ナチスではないと言う事。それが大事だと思う。その象徴が、ナチスが主人公を逆に助ける。
この映画の各エピソードは全てフィクションだろうが、大きく見れば、ポーランドと白ロシアやウクライナ国境の近現代史と言える。ウクライナ対ロシアの以前から、虐げられたユダヤやロマ等の民族がいたし、その子孫は今でもいる。
コザックが登場するが、コザックはウクライナ人の一部と解釈される事もある。この映画でのジェノサイドを見たら、今の現実はなんだろうと思えてしまう。
やはり、戦いは民族対民族ではなく、権力者対権力者なのだと思う。従って、現在の争いは、ウクライナの政治権力とロシアの政治権力の戦いで、両国民がそれの犠牲になっていると解釈すべきだと僕は思う。そもそも、ウクライナには700万人以上のロシア人が普通に住んでいる。その国が軍事同盟のNATOに加盟すると、言い出す事自体がおかしい。あのフィンランドすら、NATOには加盟していない。因みにロシアはNATOの準加盟と聞いた事がある。
悉く…
同じ人が受けてる仕打ちなのかと、一つでも嫌だが、惨すぎる。しかも子供。リンチを受け、川に流され、カラスに頭を啄まれ、隣では目をえぐられ、ソ連に売られ、男に犯され、掃き溜めに投げられ、極寒の中、氷の下に落ち、女に慰み者にされ、正に生き地獄。途中、不謹慎だが、ここまでの不幸の連続で笑えてくるほど。人間の所業とは思えない。まるで悪魔だ。そして悪魔は悪魔を生み出しかねない。略奪者達が吊るされる場面では少年は笑みすら浮かべるようになり、本来あるべき人間としての感情が壊れてしまっている。孤児院にいれば平和なものの、いつしかその暮らしにも慣れず抜け出そうとし、銃で人を殺してしまうまでになる。夢であった実の親と再会を果たしても、涙すら流さない。親に疎開させたのはお前のためだったと言われても、想像を絶する体験をしてきた本人にとってみれば、無責任なことを言うなと感情が爆発する。父と共に母の元へ帰る途中、父の腕に刻まれた収容所での番号を見て、父たちも苦労していたことを知ったのか、窓に自分の名前を記す。そう、この映画、ラストに初めて少年の名前がわかる。そんなこと気にならなかったくらい、衝撃的なシーンの連続だったことを思い知る。実話ベースの話がいくつあるだろうか。すぐには、いや一生元の生活のようには暮らせない、普通の感情には戻れないかも知れないが、ラストシーンに一筋の光明が見えた。見てて苦しかったが、バッドエンドとならず良かった
間が
一つ一つのエピソードは面白いし、最後の終わり方もとても良い。けど芸術過ぎるなー。間が長い。その上言葉が少ないので眠くなること山のごとし。ウド・キアとかハーベイ・カイテルとかグリーンマイルのあの人とかいい俳優がずいぶん出てましたね。まあなんか完成度は高いだろうからどうしょうもないけど私が作るならもちょっとサカサカ進ませてせめて2時間以内におさめたいかな。
冒頭から嫌な予感しかしない。小動物を抱えてひたすら走って何かから...
冒頭から嫌な予感しかしない。小動物を抱えてひたすら走って何かから逃げる少年。予想通りに軍服を着た男達に捕まり、抱いていた動物もとりあげられて目の前で焼かれてしまう。何故そのような事態になったのかはよくわからない。
東欧のどこかというだけで、場所もはっきりせず、少年の名前も年齢も明かされない。故郷を目指して旅をするのだが、どのくらいの歳月がかかったのかもわからない。
とにかくいく先々で辛い体験をしてしまうので、観ていてとても辛くなる。
人間の本質を抉りつくして残ること
ユダヤ人虐待の話であるが、それと使ってさらに人間の本質に迫ろうとした作品である。しかも、ほとんどセリフはなく、つかみきれない場面もあった。
ただ、一貫しているのは異端の排除と人間の身勝手さだ。しかも戦時下の影響もあって荒んだ人々の手にかかるため、信じられないほどの残酷さで淡々と描かれていく。少年はとんでもない目に遭いながら生き抜く中で、良くも悪くもその残酷さを手に入れてしまうのだ。
最後、迎えにきた父親と共に家に帰るシーンとなるが、そのいく手も決して希望のあるものでないことを暗示している。救いがとことん無い映画だけれど、エンドロールで流れる曲を聴きながら、少年の気持ちに寄り添うしか無いなのかなぁと思った。
はまらず🙅♂️
白黒でセリフ少なめ。自分は引き込まれなかった。
残酷な人間ではなくて、人間が残酷なんだな
残酷な世界をたくましく・・・なんて解釈は間違いだな。
残酷な世界で自分の居場所を探さなくてはいけない人間の悲しさを描いてると思う。
ホロコーストから生き延びた少年の人生
この時代は苦しみの連続で、生きづらくて、今命があるだけ奇跡なんだなぁと思いました。小学生の作文みたいな感想ですみません(笑)
人間は醜くて争いや残虐行為や快楽行為が大好きな気持ち悪い生物ってのがよく出てますね。
絶望9割希望1割って内容です。
私は好きでした。
これは実際にあった映画として、勉強として観るべきだなとは思いました。
The Painted Bird
映画「異端の鳥」(バーツラフ・マルホウル監督)から。
久しぶりに、人間の卑劣な部分を思い知った気がする。
制作は、チェコ・スロバキア・ウクライナ合作だけど、
どこの国にもあり得る、差別、いじめ、リンチなどのシーンが
これでもかってくらい続く、見ていて辛い内容だが、
2時間49分の長編・モノクロにもかかわらず、
あっという間に、観終わった。
モノクロの効果は、肌の色も髪の毛の色もわからない。
ということは、自分たちには関係ない外国の話ではなく、
世界のどの国でもあり得る話として受け止められた。
原題「The Painted Bird」で象徴されるように、
黒い鳥を、わざわざ白くペイントして空に放すシーンがあり、
たぶん以前は仲間として認識していたにもかかわらず、
今度は、和を乱す敵として認識し、多勢で攻撃を仕掛け、
傷つき、疲れ果てて墜落する光景が目に焼き付いている。
最近、よく耳にする「LGBT」をはじめとしたマイノリティも、
最初は、こんな状態だったのだろうか。
この「The Painted Bird」も複数だったら、もっと多かったら、
結果はどうなったのだろうか、
そんなことまで深く考えてしまった作品となった。
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