海辺の映画館 キネマの玉手箱のレビュー・感想・評価
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映画は何を伝えるために在るのか
わかりやすい映画は存在する。
確実に怖がれる、確実に泣ける、等々。
配給側もCMで宣伝し(「全米が泣いた!」)、観客もそう期待して映画館に足を運ぶ。
それは決して悪いことではないし、映画はTVニュースではなく、所詮はエンタテイメントだ。ただ、「親切」の度が過ぎるのもいかがなものかと思う。
やたらとテロップが流されて、過剰なナレーションやコメント、BGMには作り手の「押し付けがましさ」を感じる。まるでワイドショーと同じレベル。きつい言い方をすれば、一種のプロパガンダだ。
わかりやすいということは、確実に作り手が「制作」した見解を一方的に提示し、受け手が考えて選択する権利を奪っている。
「はちどり」のキム・ボラ監督はこう言っている。「観客たちは映画について、豊かに想像を巡らせます。私はすべてが正解だと思っています。作り手の意図とは関係なく、映画にはいろいろ答えがあるのです。」
「過剰演出は観客が望むことだから」と言われてしまっては反論もしようがないが、約ニ時間という制限された時間と空間で、製作側は何を盛り込み伝えようとするかと思いを巡らせ、観客は制限された情報から何を読み取り、思うか、観賞中と後に深く考える。
最後まで大林さんらしさを貫く
大林宣彦監督の遺作。
閉館する尾道の小さな映画館で、現代の3人の若者が映画の世界に入ってしまうお話。
戦争映画特集だったため、江戸時代から、乱世の幕末、戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争の沖縄……「戦争映画」の世界を旅していく。
で、時間経過とともに、白黒サイレント、トーキーから総天然色と映画の進化に合わせた変遷の、ポップな画面作りをしていたので、目が超チカチカしました。
そこには、大林さんのエネルギーと、行き過ぎといえるほどの「映画愛」があふれていました。
あふれすぎて、前衛的にぶっ飛んでいて「よくわかんないよ!」と叫びたくなるくらい。
そのため、万人に薦めるかは微妙。
『花筐/HANAGATAMI』と似たような作りなので、あれが好きな人にはおすすめします。
また、反戦と平和への祈り、大本営発表しかしない政府への恐怖、そして権力に与する付和雷同な日本人の特性への危機感をあらわにした内容。
死の直前まで、自由な発想で若者みたいな新規映像へのチャレンジをし、反骨精神を忘れない、大林さんらしい作品だったと思います。
そしてヒロインの一人に新人を起用し、アイドル的に撮ってたのも大林さんらしかったw
二人称単数での語りかけが重い
驚くほどストレートな反戦メッセージ。
(特に後半は怒涛の畳み掛け)
に見えましたが、実は、
『そこのあなた、映画を見て○○を学んだ』とか『大事なメッセージを受け止めた』とか言ってるようだけども、じゃあ〝今、なすべきことはなにか〟について語るものはあるのか?
と、観客席の不特定多数が相手のはずなのに、二人称単数で直接語りかけられたような重さを感じました。
監督の目には、現代日本人の多くが、空気を読んでばかりで(忖度を優先して)、結果的に付和雷同と言われるような言動を選択しているようにしか見えない、ということなのだと思います。
詩人・中原中也のように近い将来に起こり得るリスクを想像する思考習慣を身につけ、時には自分の中の直観的な違和感をもっと危機感として表現してもいいのではないか。
映画を語る時に、政権や社会への客観的事実に基づく批判ではなく、政治色の強いイデオロギー要素の文脈を取り入れるのは、生理的にあまり好きではないのですが、鑑賞後に少しばかり気になる点を振り返ってみたら、
・明治維新後の長州閥(現首相も山口県にルーツがありますが、伊藤博文や佐藤栄作など在任期間トップ4はすべて山口県出身‼️)の政府要職の独占
・大本営発表のフェイク振り
・現政権の強行的な運営手法(結果的に官邸への忖度が常態化している)
これらのすべてが繋がっているかのように描かれていたと感じられたので、何となく違和感が残りました。監督の意図について実際のところは分かりませんし、ただの思い過ごしかもしれません。
このように、総合芸術である映画にしては、ある意味〝身もふたもない〟ほど直截的メッセージに満ちた作品であるように、私には思えた分、今なすべきことを考えることよりもそちらの印象の方が、最終的には強く残ってしまいました。
作品のあり方として、良いか悪いか、ではなく、一表現者としての監督が、そのようにストレートな表現方法を取らなければならないところまで追い詰められるほど、現状への危機感があったのだと受け止めたいと思います。
今年No.1
大林版「ニューシネマパラダイス」と言っているが、それを遥かに上回っている作風で、大林宣彦の集大成とも言える❗️
主人公三人の閉館間近のスクリーンから戦争時代にタイムスリップしてから刻々と刺激を受けて一皮剥けた姿が脚本とスクリーンのところから観て読み取れる!!
日常生活に疲れてしまった人、学生時代の方が充実していた人には是非観てもらいたい‼️
何かしら各々に何か蘇って来ると思う!!!
お疲れ様でした
内容は現代性に欠けていて新しさは感じなかったけど、監督のエネルギーは衰えていなかった。ポスターが気になった。ひと目見て思い浮かんだのは、横尾忠則作の一連の寺山修司映画演劇のポスターデザイン。そっくりだと思うのは自分だけか?
監督の底力に圧倒されます
はじめ・・・・なんだこれ?と思いました。
朴とつとしたうまいとは言えないナレーション、奇天烈な映像は走馬灯のように切れ切れの断片で、意味不明。
・・・・でも、不思議と飽きは来ずそのまま見続けて、30分ほどしてようやく細かい短編のような作りになり、中盤でこの映画ものすごい重たいぞ??と、メッセージ性強い作品であったことに気づき、そのまま最後まで見て・・・圧倒されました。
なにが?といわれると難しい。けれどこの時代にあの年で闘病中でこれだけ力強い作品を作る監督の底力に圧倒されました。
大林宣彦監督は進化し続けている
東京国際映画祭にて。ワールドプレミア。
「映像の魔術師」大林宣彦監督の最新作。監督、御歳81歳にしてまだまだ意気軒昂である。こんな映画が撮れるのか...。観終わったあとの衝撃がまだ取れない。
179分、圧倒的な情報量でこちらをなぎ倒してくる。監督の嵐のような心象風景と、反戦への強い誓い、そして現代の私たちへの警鐘というメッセージが目眩く展開される様。
映画純文学と称されたこの映画に満ちるもの。中原中也の詩に彩られながら、時代と場所を縦横無尽に駆け回り、映画史と戦争史が描かれる。
舞台は尾道。大林監督にとっては約20年ぶりの尾道映画である。今夜限りで閉館する映画館のオールナイト上映にやってきた3人の青年が映画の中に巻き込まれ、文字通り戦争を「体験」していく。
映像の作り方は極めて自主映画的である。VFX周りのチープさを燦然と輝かすことのできる映画監督、それが大林宣彦。笑ってしまうようなチープな映像と、圧倒的な風景と、役を生きる役者たちが渾然一体として、あまりにもカオス。それに加えて、画面内の情報量がこちらの処理能力を超えそうなくらい迫ってくる。ナレーションとテロップが多用されるのも情報量の多さゆえだろうか。
そして常に向けられる「普通の人びと」への視線と強い反戦の誓い。若者たちは会津から満洲から広島、果ては巌流島まで。そして維新前後からWWⅡまでの戦場や市井を駆け巡り、観客から「自分ごと」に直面させられる。斬られれば血も出る。虚構ではないこの世界を、映画で学び取りながら、さあこれからどうするのか。と明確に問いかけている作品でもある。
翻弄されながらも鑑賞中、観賞後も何故だか涙が止まらなかった。具体的に何というより、何もかもに心を揺さぶられてしまった。咀嚼するのにまだ時間がかかりそうだが、発せられる強い思いは確実に伝えてもらった気がする。また新たな映画が生まれた。
キャストも隅々まで豪華である。主要人物の瑞々しさとベテランの安定感のバランス。だいぶ見つけられてない方が居そうである...。
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