「Everybody's got a hungry heart… 頬を伝う涙の理由は一体何なんだろう…?」カセットテープ・ダイアリーズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Everybody's got a hungry heart… 頬を伝う涙の理由は一体何なんだろう…?
1987年、イギリスの小さな街ルートンに暮らすパキスタン移民の青年ジャベドは、鬱屈とした思いを抱えながら生活していたが、ブルース・スプリングスティーンのカセットテープを聞いたことにより、心情にある変化が訪れる、という青春映画。
ブルース・スプリングスティーンについて、名前や「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」くらいは知っていたものの、ほとんど興味もない状態で観賞したのですが、完全に心を撃ち抜かれました…
正直、今の若い人達はあまり聴いていないと思うのですが、ある年齢以上の人たちからは絶大な支持を受けるミュージシャン。通称「ザ・ボス」。
1973年にデビューしているため、1970年頃の生まれであるジャベド達が古いと感じるのも仕方ない。
日本でも支持されており、村上春樹もファンを公言。
村上春樹はブルース・スプリングスティーンの音楽を「ワーキング・クラスの抱えた問題を、ワーキング・クラス固有の階層的問題としてではなく、より広範な、普遍的な問題として描」いていると評している。
閉塞したブルーカラーの人々についての歌に、まだ学生のジャベドが感銘を受けていることからも、この評が的を射ていることがわかる。
意外なことに、ビートルズもデヴィッド・ボウイもほとんど知らないと発言している宮崎駿も、ブルース・スプリングスティーンは熱心に聴いていたらしい。宮崎駿がブルースを好む理由をいかに引用。
自分で見たものと感じたものでちゃんと地面に足をつけて歌を作ってるっていう感じが伝わってくるから。で、それをちゃんと受けとめてる人たちがいるっていうことが伝わってくるから。『ああ、歌っていうのはこうありたいなあ』と思います ー『風の帰る場所』
貧しい労働者階級の生まれであるブルースが、人生で実際に経験した体験や思いこそが彼の音楽の源であり、その生のエネルギーが聴く者の心を震わすんですねぇ。
10代の頃、ロックンロールにぶっ飛ばされた経験のある人なら、絶対にジャベドが初めてブルースのカセットを聞くシーンで涙を流すはず。
というか、映画の中盤あたりはずっと涙が止まらなかった…😭
ジャベドの友人達もみんないい人で堪らない!
ブルースを薦めてくれた、同じパキスタン人のループスとの友情には目頭が熱くなる。
そして、ジャベドの幼なじみマット。濱田岳に似てる。
始めは嫌なヤツかと思ってたけど、こいつがめちゃくちゃ良い!
喧嘩の原因もすげぇしょうもない事なんだけど、好きなものをバカにされて拗ねちゃうところとか、わかるわかると共感しまくり。
マットのオヤジさんのボンクラ加減もいい味出してます。
ブルース・スプリングスティーン最高っ!という映画なのだが、そこで終わるのではなく一歩先へ踏み出しているところも好印象。
ブルース至上主義者となり家族や友人と対立していくジャベドだが、自らの頭で思考することにより利己的だった自分を省みる。
これは白人至上主義を掲げ人種差別もいとわない極右政党、国民戦線と対称関係にあり、思考を放棄し多様性を失った人々への批判にもなっている。
かなり青臭い作品だが、音楽に対する喜びと楽しさに満ち溢れた感動作。
しかし、お話の展開はかなり弱い。
特に後半はほとんど物語が動かないので結構退屈…🥱
実話を基にしているのだから仕方ないことではあるが、もう少しドラマが欲しかった。
ブルース・スプリングスティーンのことをよく知らない人でも大丈夫!👌
「ウィー・アー・ザ・ワールド」で変な顔しながら歌ってた人、ぐらいの認識でも十分に楽しめます。
音楽を愛する人にはオススメ!
※観賞するにあたり、特別な知識は必要ないがそれでもちょっとは知っておいた方が良いこともある。
まず、イギリスは1950年ごろ労働力としてパキスタンからの移民を大量に受け入れた。
パキスタンはもともとイギリス領であり、お隣のインドと戦争しまくってたから移民の人がたくさんいたんですね。
自分たちで受け入れておいて差別するんだから、困ったもんじゃい。
1987年のイギリスは「鉄の女」サッチャー政権下にあった。
アメリカ同様スタグフレーションに苦しんでいたイギリスは、水道・ガス・電気などの民営化、法人税や所得税などの引き下げにより、事態を打破しようとする。
「新自由主義」という、政府は市場や個人にあんまり関与しませーん、的な政治の結果、失業率がとんでもないことになってしまった。
アメリカもイギリスも保守派が政権を握っており、その結果イギリス国民戦線のような人種差別も辞さない白人至上主義の極右政党が力を持つようになった。
時代背景はこんな感じ。このくらいは押さえておいた方が良いかも。
移民にとって、80年代は生きづらい時代だったんですねぇ。
今もあんまり変わってないだろうけど。
とっても知的なレビュー、ありがとうございます😊。そうですね、日本ではそこまでブルースがしょっちゅう流れてる、という環境ではありませんが、やはり浜田省吾、佐野元春をはじめ、数多くのミュージシャンに多大な影響を与えたスターです。
推しがいるって幸せですねw