朝が来る

劇場公開日:

朝が来る

解説

直木賞、本屋大賞受賞作家・辻村深月のヒューマンミステリー小説で、テレビドラマ化もされた「朝が来る」を、「あん」「光」の河瀬直美監督のメガホンで映画化。栗原清和と佐都子の夫婦は一度は子どもを持つことを諦めるが、特別養子縁組により男の子を迎え入れる。朝斗と名付けられた男の子との幸せな生活がスタートしてから6年後、朝斗の産みの母親「片倉ひかり」を名乗る女性から「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話が突然かかってくる。当時14歳で出産した子を、清和と佐都子のもとへ養子に出すことになったひかりは、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心やさしい少女だった。しかし、訪ねて来たその若い女からは、6年前のひかりの面影をまったく感じることができず……。栗原佐都子役を永作博美、栗原清和役を井浦新、片倉ひかり役を蒔田彩珠、栗原夫婦とひかりを引き合わせる浅見静恵役を浅田美代子がそれぞれ演じる。新型コロナウイルスの影響で通常開催が見送られた、2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出。

2020年製作/139分/G/日本
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2020年10月23日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第44回 日本アカデミー賞(2021年)

ノミネート

最優秀監督賞 河瀬直美
最優秀主演女優賞 永作博美
新人俳優賞 蒔田彩珠

第73回 カンヌ国際映画祭(2020年)

出品

カンヌレーベル「常連(もしくは過去に一回でも選出されたことがある制作陣)」
出品作品 河瀬直美
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(C)2020「朝が来る」Film Partners

映画レビュー

4.0他人の生き方の背景を想像する力

2020年10月30日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 養子の産みの親を名乗る人間が突然訪ねてきて「子を返せ、駄目なら金をくれ」と言う。そこからトラブルの傷口が広がってゆくのか…ついそんな漠然とした想像をしたが、その通りには進まない物語だった。
 そこかしこにミスリードを呼ぶ描写が仕掛けられている。それも入り組んだ謎解きのパーツではなく、観客の「人を見る目」の先入観を利用した仕掛けだ。
 前半は不妊治療を経て養子を迎えた栗原夫妻の物語。結婚から夫の無精子症の判明、養子受け入れに至るまでの過去の心の揺れが丁寧に描かれる。現在パートで息子の幼稚園でのちょっとした不穏な出来事の描写、茶髪にスカジャン、派手なネイルといった出で立ちで生みの親を名乗る女性。血の繋がりのない子への信頼はこういう時揺らぐのか、やさぐれた産みの親の登場でここから揉めるかも知れないなどと、いつの間にか栗原夫妻の視点で不安を感じ、環境や見た目から早めのジャッジを下そうとする自分がいた。
 後半で別の視点から物語が紡がれ、序盤の謎が少しずつ明かされてゆく。真実が見えてくるにつれ、ただ寂しさや哀しさ、やるせなさが胸に迫る。ここでもつい彼女の生活を狂わせた悪人を探したくなったが、強い悪意を持って彼女を追い込んだ人間はいなかった。彼女と彼女に関わった人達の幼さや鈍感さ、不器用さなどの積み重ね。罪深いと言えるものもあるが、この作品は特定の誰かを糾弾する作りにはなっていない。
 人が何故その生き方を選ぶに至ったのか。頭ごなしに否定する前にひと呼吸置き、今のその人を作った過去の存在に思いを馳せること。その人の言葉の意味、発した理由を考えること。結果的に相手を理解しきれなくても、そのちょっとした想像力が緩衝材になって社会を少し柔らかくしていくのかも知れない。あなたはそんな想像力を持てていますか?そんな問いかけをされている気がした。
 実際の人生においては防衛本能が働くので、そのような想像力のアンテナは適時意図して働かせないと鈍りがちなものだとも思う。その辺の難しさも考えさせられた。

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ニコ

3.5Fresh Scoop of Alternative Japan Family Life

2021年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

Comparing the English titles is telling--True Mothers is the feminine version of Koreeda's Like Father Like Son. Unlike the switched birth conundrum in the latter, Mothers is about a couple who choose to adopt from a teen pregnancy. Sometimes the plot is a little confusing, and once the main characters are confused about the blood mother's identity--I was too. Not as concise as its elder but good.

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共感した! 3件)
Dan Knighton

4.5辻村深月小説映画化の新たな傑作

2020年10月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

幸せ

辻村深月は伊坂幸太郎と並び愛読する2大ミステリ作家だが、後者に比べ映像化が少ないのは、辻村作品の大きな魅力である鮮やかな伏線回収と謎の解き明かしが視覚的に表現しづらいのが一因と考える。ただし「朝が来る」はミステリ要素が少なめで(敢えて挙げるなら、訪問者・ひかりの真偽、彼女の変貌の理由あたり)、特別養子縁組で交わった生母と育ての親の心の動きに重きが置かれるので、比較的映像化しやすかったのだろう(川島海荷がひかりを演じたドラマ版も良かった)。

河瀬直美監督は映像でストーリーを語るタイプの作り手なので、作品によっては好き嫌いが分かれそうだが、本作では原作のテーマと筋を十分に尊重して俳優たちの演技と台詞を構成した上で、監督らしい自然のショットを適宜挿入。河瀬テイストを刻みながらも間口の広いヒューマンドラマに仕上がった。「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の蒔田彩珠の演者としての成長も頼もしい。

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高森 郁哉

4.5静かな語り口だが、脈打つ鼓動と光はとても力強い

2020年10月25日
PCから投稿

静かな語り口だが、そこに脈打つ鼓動はとても力強い。この物語は線形には進まないし、家族ドラマかと思えばミステリーに針が触れ、究極的には全てを包み込むヒューマンドラマの域にまで達していく。また、いかなるどん底に落ちようとも、決して失われない“眩い光”も観る者の魂を魅了してやまない。これまで河瀬作品はいくつも見てきたが、今回はどれとも違った。物語の輪郭線がはっきりしているし、感情とオーバーラップする自然描写や、時にカメラがドキュメンタリータッチに切り替わる河瀬作品的な手法も、今回は全ての要素が「物語」の太い幹を支えるため、しっかりと身を捧げているように思えるのだ。こうやって原作の良さを伝えるとともに、映像でしか成しえない表現性を確立することで本作の世界観はぐっと奥行きを増している。俳優陣も素晴らしいレベルで重責を果たした。とりわけ永作博美と並び、蒔田彩珠の存在感が実に輝かしいのは言うまでもない。

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牛津厚信