「バート・レイノルズの為の物語」ラスト・ムービースター しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
バート・レイノルズの為の物語
私は古典名作映画には全く詳しくないし、どちらかというと物語の筋や役柄に注目してしまって、俳優の名前と顔をなかなか覚えない性質。
バート・レイノルズに関しても殆ど知らないし、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドも見ていない。
一人の名優の老いや斜陽を描く作品として、全くのフィクションとして鑑賞した。
冒頭、手の施しようがないと獣医に診断された愛犬を安楽死させ、空の首輪を独りの自宅に持ち帰る。その喪失感が、この老俳優の現在を象徴している。
勘違いで出向いた映画祭は、映画オタクの若者達の貧相な手作り映画祭だった。腹を立てて飛び出したヴィックは、運転手役の鬱なパンクギャル、リルを引っ張り回して、自分のルーツである故郷を巡り始める。
中身のない首輪の如く、失ったものを回顧し、懐かしみ、後悔しながら、別れを告げる為の道程は、コメディタッチで描かれているが、常に寂しさと哀しさを漂わせる。自分や身内になぞらえてその寂しさが理解できる年代になった今、このシチュエーションはどうしたって涙腺にくる。
孫のような年齢のリルに、時に助言し、時に助けられ、今は失った身内であるかのように、距離感を縮めていく二人。
最後に二人は映画祭の会場に戻り、数十年振りの謝罪だと、映画祭を侮辱した事を謝り、手作りの功労賞を受け取る。
いつだって、過ちを認めやり直すのに遅すぎる事はない。訪れる最期の時まで。自宅に戻った彼の傍らには、新たな相棒(犬)の姿があった。
この作品が、バート・レイノルズの遺作となったらしい。その事実にに思いを馳せると、この結末も殊更感慨深い。
スターの回顧と後悔、老いの哀しさ。テーマとしては昨今よく見掛けるタイプ。キャラクター達の立ち位置や心情変化の説明も十分とは言えず、全体にザックリした印象は否めない。
多分、バート・レイノルズやその作品に思い入れがあるかどうか。大スターとして時代の寵児となりながら、全ての選択を誤ったと感じる男の物語と、彼を演じる俳優の人生を重ねて見られる素養があるかどうかが、評価の分かれ目になる気がする。
映画オタク達の暴走ぎみの情熱と、どこか憎めない雰囲気がいかにもで、いい味を出している。リルとヴィックのバディが、クレイジーな今時の若いもんと、気難しく説教臭い年寄りの対比かと思いきや、時に常識人と悪ガキの関係に反転するのも面白い。
私の好みでは、レイノルズは、昔の濃ゆい男臭さよりも、年取ってからの方が断然カッコイイと思った。熟練したベテランの演じる姿を、今後も見せて欲しかった。