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「感覚や意思や行動をいつのまにか操るのだ 此方の願望を相手の意識の底に流し込む 深く深く 暗示という、心理的現象である」 劇中の大学講師のモノローグだが、時代背景、森鴎外原作という純文学を用いたこともあって、江戸川乱歩的世界観をイメージしてのレンタルだったのだが・・・
鑑賞後に今作品を調べてみると、色々てんこ盛りの“添加物”情報が満載であった。ヒロインの女のプライベートや芸能界での売り出し方、そして刃傷事件と不起訴、オーバードーズ、堕胎と、作品そのものよりも外野でのセンセーショナルな事情が目立ってしまったようである。しかし、自分はそんなお騒がせ事件を知ることもなく、この顛末に引っ張られてしまうことが作品にとって良いのか悪いのかは解らない。映画作品として上映されて2日後の出来事だったということで、早期に打ち切られたのだろうか。この辺りも知りたいところである。
今作品の不鮮明とする部分は、原作そのものの問題なのか、それとも制作側の意図がこの“美魔女”を何とか第二の壇密、橋本マナミに添える為の戦略がチープなのか、ソフトストーリーとして文学エロスのカテゴリに落とし込みたかったのか、その辺りの“大人の事情”感がまるで蛇のように作品に纏わり付いている構図が拭えないのである。映画は総合芸術と共にビジネスとしての側面も併せ持つ双頭の蛇である。前提ということならば、今作品はそのバックボーン、成り立ち、そして話題性という総合表現としては大変優等生的立ち位置なのかもしれない。しかし、あくまでも作品としての感想を掲示するサイトであるからして、純粋に映像内容の評価をしたいと思う。
原作未読だが、多分、このストーリーの落とし処の無さも含めての浮遊感込みの構成なのであろうことは始めに鑑賞後の率直な意見である。夫が妻に催眠術を施すようなシーンはない。それも、物語設定として施術済ということならばそれを説明する件があってもよいが、そこは観客に判断を委ねている。元々あの時代に於けるマチズモとしての男の威厳を保つために、早漏という恥辱に代わる他の支配方法として催眠術を用いたというベースで、それがエスカレートして、他の男に操を提供しても、心迄は靡かないというマインドコントロールに到達した、実験の成功と同時にその虚しさに苛まれるという骨子がテーマとなっていると思われる。ファーストインプレッションは、単なるNTR系文学かと直感したが、これ以上に複雑なレイヤーが被る精神構造のドラマなのではと思い直した。但し、これは自己解釈なので、単純にNTRだけなのかも知れない。サスペンスとしても描き切る作りでなく、かといってサイコスリラーとしても煮え切らない、本作にも描かれる『白昼夢』の世界観を表現したかったのではないだろうか。現か幻かを、観客にも傍観者然を許さず、一体となって埋まらないピースの世界を浮遊しているイメージを共有したかったのではないかと想像する。
まぁ、ヒロインの絶望的演技力、かといって通り一辺倒の喘ぎ声のパターンの無さ、圧倒的表現力皆無を突きつけられれば、結局年相応の乳首の色素沈着具合や肥大化を悦ぶ好事家達だけの作品に落ち着くのは、余りにもテーマ性や世界観として勿体ないと思い、拡大解釈したまでである。時間を逆行したかのような“美魔女”プロポーションとしかし偽らざる熟成した部分の露出とのアンバランスさは確かに興味を駆り立て、作品のモチーフに花を添えているとは言えるが、“この世界の片隅に”でも有名になった傘のフレーズを安易に使うのはパロディとしての面白さはあっても作品には一切必然性がないことに苛立ちを覚える。明治時代感を演出したくて無理に書き言葉を口語として台詞に落し込んだりと、安易さが散りばめられていることを排して、もっとサイコ感を表現することに徹すればより万人向けになると思うのだが如何だろうか。それかヘンリー塚本が監督してAVに仕上げた方が美魔女も救われたかもしれない。