「それは落ちた社会の話」レ・ミゼラブル ミカさんの映画レビュー(感想・評価)
それは落ちた社会の話
今作を観ながら真っ先に思ったのが、マチュー・カソヴィッツの『憎しみ(1995)』という作品。当時私が観ていたフランス映画と言えば、ベッソン、ルコント、ベネックスが中心だったので、フランスの貧困地区を舞台にしている作品を観るのは『憎しみ』が初めてで、酷く衝撃を受けました。
それから、約25年。1995年からフランスの貧困地区は何も変わってなく、むしろ時代と共に更に酷くなっている印象を受けました。貧しい大人達はなす術がなく、子供達は犯罪を犯す。貧困層は更生のチャンスも与えられず、政府も根本的な解決をするつもりがない様にみえます。
今作が公開される少し前から新型コロナウイルスが世界中で流行しましたが、作品の中で描かれる貧困層のライフスタイルを観ていると、彼らが新型コロナウイルスの感染から身を守れない事が容易に分かります。密集し衛生的でない住環境、仕事はサービス業が中心。
現に新型コロナの死者の大半は、貧困層と移民です。政府が無策であれば、この新型コロナウイルスをきっかけにして、今後更に経済格差は広がり続けます。
今後の更なる経済格差の広がりは、日本も例外ではありません。私はフランス映画を鑑賞しているのに、今作から政治が腐敗し落ち続ける日本社会を想像してしまいました。
落ちていく社会を描いた『憎しみ』で語られたラストのセリフ、『ここまでは大丈夫』のどの地点に私は日本はいるのだろうかと。
’‘それは落ちた社会の話。落ちていきながら何度も確かめた。ここまでは大丈夫、ここまでは大丈夫…。大切なのは落下ではなく、着地だ。“
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