「横たわる格差」パラサイト 半地下の家族 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
横たわる格差
ある金持ち家族に身元を偽って雇用された一家族が、四苦八苦しながら取り繕うさまを滑稽に描く序盤。貧乏家族が金持ちを騙し留飲を下げるドラマかと思いきや、さにあらず。
格差や学歴社会、生まれた環境による越えられない壁など、非常に風刺のきいた表現で社会の闇をえぐりつつ、次第にサスペンスやホラーの様相を帯び、どこに連れていかれるのかわからない怒涛の展開。
最後は、痛さだけが残った。
テーブルの下で聞かされる金持ちの愛撫。「貧乏人は臭い」という言葉で、元スポーツマンの矜持がガラガラと崩れていく負け組の痛々しさを、父親役のソン・ガンホが好演。地頭はいいのに金がなく、進学できない兄妹。口は悪いが、決して悪人ではない肝の座った妻。
決して根っからの悪人ではない彼らをパラサイトと呼ぶ比喩は、世界中の大多数の層を指す言葉でもあり、ひどく攻撃的な響き。
だが、社会が資本主義だろうが共産主義だろうが、大多数の人間は富が集中した場所に群がらざるを得ない。一つのパイをみんなでカツカツと切り分けて生きている。
「環境が違えば、私たちだって違う生き方をできたはず」。妻のセリフに、誰もがそう思う。
人間の矜持は一体どこに持てばいいのだろう。どれだけ貧乏でも、人から情けないと思われない生き方とは一体なんだろう。
「足るを知る」という言葉で自分を慰めても、富む側の存在そのものが傷つける。時代劇に登場する「清貧」という言葉が似合う求道者のような生活をするには、自給自足することすらままならない現代では、それも難しい。
完全な平等社会に近づくには、生まれた時に衣食住の完全に同じ施設で育てられ、教育の機会を等しく受けるか、成人後に必ず受け取れる保証金制度を設けるなど、「機会の平等」を享受できる構造にしなければならないだろう。
しかし、そんな社会はSFのなかでしか存在しない、夢物語。
だから、キムの「成功して家を買い、父親を地下から解放する」という独白は非常に残酷なラストだ。
人を騙したり欺くよりまともな考えだけど、その未来はほぼ来ないだろうと思ってしまうから。
彼の前に横たわる越えられない格差は、私の前にも横たわっている。あの地下室の闇がこちらを見ているようで、怖い。