「悪気の無い格差の問題」パラサイト 半地下の家族 shintaroniさんの映画レビュー(感想・評価)
悪気の無い格差の問題
表面的には、富裕層と貧困層のコントラスト映画で、前半は痛快なブラックコメディ路線で、物語は徐々に上手く行く「上り」で、クスクス楽しい展開だ。前半の主役は「奥様」だと思った。富裕層家族の秘密の事情を抱えてドタバタする美人妻が物語の牽引役だ。
しかし、富裕層家族がキャンプに出かけた夜、目的を達した貧乏家族の冗長な放談に、観客を飽きさせる。「さぁーて、どうする?」と思わせて、「落雷」を合図に、方向転換し、意外な展開を入れてくる。家族は物事が上手くいかない「下り坂」に入る。この方向性に好き嫌いが出ると思う。個人的には、「違う」と感じた。
サスペンス的で、乱暴な展開で、貧困層の哲学や人生に対する切ない思考、高台で日の当たる富裕層と深く低い汚水に溢れる貧困層の住む世界の違いを描いている。それを「臭い」を使って、近くに居る事を蔑視して来る。その臭いを気にする「主人の社長」が、呑気に「お楽しみ」の最中も、机の下に隠れながら耐え忍ぶ貧乏家族のシーンを入れながら、我慢ならない感を積み上げて行く。そして殺人劇が。
後半はこの悪気のない「主人」が主役だろう。訳もわからず殺される。そして、落ち度のない娘も。果たして、狂気的殺人劇が、この映画に必要なのだろうか?という戸惑いを感じる。殺人の必然感が弱い。主人に対して理解した様な「奥様を愛しているんですね」と言う台詞が、何度か出る。主人も本音なのかわからない反応だが、だからと言って、展開には影響もなく、ふに落ちない。「娘の日記の盗み読み」もそうだ。家庭教師が騙した家族の娘と「結婚したい」なら、その展開もあるのに。もう意図的に強引にドタバタ殺人劇クライマックスとなる。小さなトラウマ息子がやはり居た幽霊と再会して白目を剥いて倒れるのはお見事だが、ここでその笑いを入れたいなら、この展開じゃない。モールス信号も、大した役割もない。全体的に映画の構造はしっかりしているのに、なんか勿体ない。
この家族の能力の高さ、その能力の発揮のさせ方に、プライドを持たせ、悲しい事も乗り越える、庶民の元気良さで、スカッとする読後感で見たかった感じがする。
もはや、庶民の力ではどうしようもない無邪気な悪意のない格差の存在、そこを描きたかったのなら、描けてます。