劇場公開日 2019年11月15日

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「コミュニケーションの方法は一つじゃない」わたしは光をにぎっている ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0コミュニケーションの方法は一つじゃない

2019年12月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

ジャンルで言えば下町人情物語か、いや、落語で言うところの長屋噺に近いだろうか。それだけを聞いて、古臭いと思って本作を観ないのは些かもったいない。じっくりとスクリーンを見つめてみると、映画本来の物語表現技法がまざまざと描かれていることに気づかされる。

意図的なのだろうか?本作は平成30年を舞台にしているにもかかわらず、SNSをするシーンが一切登場しない。広報は店の前の掲示板に貼ってお知らせ、チラシも手書き。時代遅れ、リアリティがないと言われればそれまでだが、かつてはそれが普通だった。かつて普通だったことを現在行うことで見える不思議さ、異様さ、面白さ、そして温かさ。

特段、人とのコミュニケーションが上手くできない主人公が見よう見まねで銭湯での仕事を始めるシーンが実に印象深い。言葉ではなく、行動で仕事を教える店主と一緒に浴場を清掃する場面の何とも微笑ましいことか。そして、かつて映画もサイレントであったことの面白さもこの作品には垣間見えるのだ。

SNSの普及で我々のコミュニケーション方法は確実に変わり、会社の説明も「配布した書類を読んでください」で済まされ、常に文字情報が仲介する時代になっている。しかし、コミュニケーションの方法は一つじゃない。人と繋がる方法は他にもある。それは会話かもしれないし、行動なのかもしれない。自分のできる方法で人と繋がれば良い。時代が変わり、何かがなくなっても掌ににぎった光は消えないのだと感じさせる微笑ましいラストシーンになんともほっこりさせられた。

Ao-aO