「ホテルマン」ホテル・ムンバイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ホテルマン
2008年にインドのムンバイで起きた同時多発無差別テロ。
うっすら覚えているような、いないような…。何と罪深い自分…。犠牲になられた方々、誠に申し訳ありません…。
いつぞやWOWOWでこの事件をB級サスペンス・アクションとして描いた作品が放送されスルーしたが、本作で見れて本当に良かったと思う。
事件の概要を簡潔に。
2008年の11月26日夜から11月29日朝にかけて、ムンバイの外国人向けのホテルや駅など複数の場所が、イスラム過激派と見られる武装勢力が襲撃、負傷者239人、死者172人を出した。
中でも特に被害が大きかったのが、五つ星の“タージマハル・ホテル”。
このホテル内で起きた惨事の模様を、テロリスト、警察、そして客や従業員の視点からの群像劇スタイルで描く。
まず、テロリストたち。
この手の作品の場合、テロリストたちは惨劇を起こした背景としか描かれない事が多いが、しっかりと描写される。
しかしだからと言って、コイツらに全く一切微塵も理解も共感も出来ない。
ホテル内で客や従業員を見つけたら、即殺す。
一部屋一部屋確認して回り、即殺す。
客が部屋の鍵を閉めたら、フロントを銃で脅して嘘を付かせて鍵を開けさせ、即殺す。フロントがそれを拒んだら、即殺す。
銃乱射、時には手榴弾まで用いて。
何の躊躇も無く、無慈悲に。
何故、こんな事が出来る…?
「神(アッラー)の御意志の聖戦」というコイツらにはコイツらなりの信念を持っての事のようだが、神がこんな暴虐を認めるものか。
もし認めるのならば、私は神(アッラー)を許さない。
コイツらを許さない。
警察。
特殊部隊が現場に到着するまで、まだ何時間もかかる。
自分たちが行かねば。
果敢にホテルに入ってテロリストと銃撃戦となり、客や従業員たちを救おうとするが…。
客。
襲撃を何とか逃れた客たちは、各々で、従業員に誘導されたりして、身を隠す。
見つかったら即殺される恐怖。
なかなか助けが来ない苛立ち、焦燥…。
ホテルの“チェンバーズ”と呼ばれる秘密の部屋に隠れるも、極限状態下の密室空間内で、インド人の客や従業員たちに対し偏見の目が向けられ…。
客でメインとなるのは…
インド人の妻と産まれたばかりの赤ん坊を持つアメリカ人建築家。幾ら“ローン・レンジャー”とは言え、部屋に残してきた我が子を助けに行こうと危険を顧みず向かうが…。
ジェイソン・アイザックス演じる注文細かくうるさいVIP客。“ドラコパパ”だし、大抵こういう人物は周りを掻き乱すが、意外や頼りになる。
が、建築家は人質として捕らえられ、秘密の部屋が遂にテロリストに場所を知られ…。
従業員。
メインはデヴ・パテル演じる平凡な従業員。その日は靴を忘れ、ベテラン料理長から厳しく叱られ…。
思わぬ事件に遭遇。
自身も家庭持ちで、絶対に死ねない。が、お客様を守らなければならない。
その勇敢な行動。
厳しい料理長も客たちを落ち着かせ、救おうと尽力。
その姿に称賛を贈りたい。
終始途切れる事の無い緊迫感。
銃撃戦の迫力。
実録映像も交えた臨場感、リアリティー。
役者陣の熱演。
監督は本作が初長編となるが、見事な力作デビュー。
大作ではないかもしれないが、見応えは充分で素晴らしく、紛れもない一級品。
テロリストたちを絶対に許さないと書いたが、皆少年たち。
彼らに命令を下す“ブル”と呼ばれる首謀者。自らは手を汚さず、無線で彼らに“聖戦”と信じ込ませる。しかもこの首謀者は未だに捕まっていないという。
少年テロリストたちや凶行は許し難いが、この首謀者こそ許し難い。
ラスト、そそのかされ、神を信じて死ぬ少年たちに、ついつい少しだけ哀れさを感じてしまった…。
事件は終息した。ゾッとするような惨劇と多数の犠牲者たちを出して。
生き残った人々の安堵感、解放、再会…。
家に帰る。愛する家族にまた会いたかったから、生き残れた。
その為に命を懸けて護ってくれたのは、従業員たち。犠牲者の大半は従業員たちだったという。
お客様は神様。従業員はどんな時もお客様を守る。
テロリストたちも神の為だったが、それとは全く違う。
ただのプロとしての行為ではなく、正真正銘、彼らこそ本当のヒーロー。
ホテルマン。
そんなホテルに泊まりたい。