スノー・ロワイヤル : 映画評論・批評
2019年5月14日更新
2019年6月7日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
除雪作業員の怒りの復讐劇がオフビートに捻れゆくクライム・コメディ
「ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2」などのラース・フォン・トリアー監督作品で知られるスウェーデンの怪優ステラン・スカルスガルドが主演した「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」(2014)は、日本未公開ながら一部の映画ファンの間で評判になったクライム・ムービーだ。何者かにひとり息子の命を奪われた平凡な除雪作業員の男が、その死の真相を求めて麻薬組織の連中を血祭りに上げていくという物語。世界中の面白映画を物色しているハリウッドのプロデューサーの目にも留まり、怒りの復讐者に豹変する除雪作業員をリーアム・ニーソンが演じるという“誰もが納得”のキャストでリメイクされた。
といっても本作のストーリーラインは、ニーソンのタフガイ・イメージを決定づけた「96時間」のように直線的ではない。主人公のネルズは復讐を果たそうにもこれといった手がかりがないため、とりあえず麻薬組織の末端のチンピラをひとりずつ締め上げて葬っていく。その“遠回しな復讐”が延々と続くのかと思いきや、ひょんな勘違いと行き違いから、長年対立していたふたつの麻薬組織の抗争が勃発。あれよあれよという間に、ネルズの思惑とかけ離れたところで死者続出の惨劇が繰り広げられていく。
オフビートな軽さで転がっていくプロットの捻れと、悲壮感も陰惨さも皆無のブラックユーモア、さらにはスクリーンいっぱいに広がる白銀の世界と鮮血のコントラストは、コーエン兄弟の「ファーゴ」を連想させずにおかない。いちいち死者が発生するたびにそのキャラクターの人名を、プロテスタントの十字架などの宗教的なアイコンとともにテロップで示すというアイデアも冷たい笑いを誘う。憎しみに駆られた報復の連鎖は、人種や信仰の違いなどやすやすと超えて伝播するということか。
そもそも「ファイティング・ダディ」は、北欧の福祉国家であり多くの移民を受け入れているノルウェーのお国事情をさりげなく取り込んだ作品だった。それに続いてメガホンを執ったハンス・ペテル・モランド監督は、オリジナル版に登場したセルビア系犯罪組織をネイティブ・アメリカンの麻薬組織に変更するなど、アメリカの風土に根ざした風刺と皮肉たっぷりのリメイクを完成させた。終盤には待ってましたと巨大な除雪車が活躍するこの映画、頭を空っぽにしても楽しめる快作だが、作り手の知的なセンスと細部のユニークな描写、そして予定調和に収まらない達観した語り口も味わい尽くしたい。
(高橋諭治)