「井の中の貞子 ネットの海を知らず」貞子 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
井の中の貞子 ネットの海を知らず
※ネタバレ指定を忘れたまま2時間ほど投稿
してしまっておりました。もし未鑑賞のまま
お読みになってしまった方々おられましたら
誠に申し訳ございませんでした。
日本の恐怖映画史に名を残す傑作ホラー『リング』。
そこで登場する呪いの根源"貞子"を、『リング』
1、2作目を監督した中田秀夫が再び撮る!
幽霊ホラー大好き野郎の自分は楽しみにしてました。
なお、シリーズ通して原作小説は未読。
日本の恐怖映画史に泥を塗る底辺ホラー『貞子3D』
辺りからまるでマスコットキャラみたいな扱いを
受けてきた貞子だが……あのね、未見の方は
『リング』『リング2』を観てくださいな。
あんなに陽気で優しくみえる具志堅用高さんが
昔は鬼のように強いボクサーだったと知った時
と同じくらいの衝撃受けると思いますよ。
さておき『貞子』のレビューを書いていくが――
...
ああもうこれは最初の方で書いてしまおうか。
『リング』級の恐怖を期待すると物足りない。
かなーり物足りない。個人的な感覚だが、
『リング』1作目の恐怖を100%とすると、
『リング2』は80%、今回の『貞子』は
せいぜい20~30%位じゃなかろうか。
『クロユリ団地』『劇場霊』は別路線の作品として
僕は楽しめたクチだが、今回ばかりは、やっぱ
1作目の恐怖を求めて鑑賞した訳で……残念至極。
まあ『怖い』という感覚にも色々あるが、
僕が本作に求めていたのは、たとえば西洋ホラーで
多用される、物陰からグワッ!と怪異が飛び出して
大音量とともに驚かす"コケオドシ"方式ではない。
僕が求めていたのは、『リング』オリジナル版のような、
突然驚くシーンは少ないのに、観ているだけでじわじわ
忌まわしさが身内に侵食してくるような類いの恐怖だ。
過去作を改めて観直したが、そもそもオリジナル版の
『リング』には観客を瞬間的に恐怖させる演出は殆ど無い。
何気無く観ていると、いつの間にか視界の片隅に何か
恐ろしい異物が映り込んでいて、数瞬遅れて悪寒が
やってくる、そんな感じの恐怖演出なのである。
重ねて、意味も脈絡も不明なのに「見てはいけない」
という忌まわしさを直感させる“呪いのビデオ”の映像、
全編を覆う曇天のような重々しい空気感により、映画
それ自体に禍々しさが宿っているように感じられた。
今回の『貞子』も、恐怖演出そのものは悪くないと思う。
先述の『リング』同様、“いきなりビックリ”の安直な
恐怖演出ではなく、違和感や不気味さを滑り込ませる
形式の恐怖演出だ。だが恐怖シーンのボリュームは
圧倒的に足りないし、オリジナル版と比較すると
様々な恐怖要素が欠けていると感じる。
...
まずもって、“呪い”の恐怖が伝わらない。
ご存知の通りオリジナル版は『ビデオを見ると1週間後
に死ぬ』というルールが存在したが、今回は無い。
いや、あるのかもしれないが描写されない。
貞子の姿を捉えた映像に新たな呪いの映像が念写される――
ここは分かる。その後も、ネットを介して無関係な
動画にまで呪いが伝染していると思わせる描写もある。
だが肝心要の「それを見たらどうなるのか」が何故か
全く描写されない。見た人間に実害が及ぶと分かれば
怖いが、そこが描かれなければ単に『気味の悪い映像
だね』だけで終わってしまうし、せっかくネット社会
に貞子を復活させた意味も薄れてしまうと思うのだが。
結局、呪いの映像による被害者は本編を見る限りは
カズマ1人だし、巻き添えを喰らった形のサバイバー
倉橋さんが貞子に殺されたタイミングもよく分からぬ。
今回の“呪い”はどうにも行き当たりバッタリで一貫性が
感じられないんよね(一貫性が無いのに人がバタバタ
死ぬならそれはそれで怖いが、被害者も少ないし……)。
映像の質感もかなり残念に感じた点。
本作の映像は全体的に――乾いて軽く感じる。
今になって再び映画撮影のデジタル化による弊害を
感じる事になるとは思ってもみなかったが、小綺麗で
さらりとしたデジタル映像からは、フィルムで撮られた
オリジナル版にあったあの、全編を暗雲のように覆う、
重苦しくじめじめとした質感が感じられないのである。
新たな呪いの映像も「見てはいけないものを見ている」
とは感じられなかった。理由を説明するのが難しいが……
オリジナル版は精神の壊れた人間の頭の中を無理やり
見せられているような感覚があったのだが、今回の
映像は脈絡が“ある”ように感じたというか……。
2019年に『リング』を再び描く上でのテーマも弱い
(個人的にはこの手の映画でテーマを前面に打ち出す
必要は無いと思うが、匂わせる程度には欲しい)。
社会から孤立する家庭、育児放棄という点は悪く無いが
様々なホラー映画で既に描かれたテーマではあるし、
ネット動画投稿という今日的なアイデアも導入でしか
活かされなかった感。都市伝説である“不幸の手紙”を
VHSへと進化させたオリジナルと同様、時代と共に
変容するメディアをもっと活かした展開が観たかった。
...
が、好きな部分もある。
先述通り、恐怖演出の手法自体は悪くない。
火災現場を撮影した映像はそれこそ「見ては
いけないものを見ている」という忌まわしさ全開。
名無しの少女が見るOL風の女の幽霊も怖い。
ただの親切な人に見えたのに……という後発的恐怖。
洞窟奥で少女が無数の霊に引き摺り込まれるシーンは、
すがるように魂を引き摺り込む霊たちのおぞましさと、
親に棄てられた少女への同情が入り雑じる良いシーン。
(その後の肝心の貞子は怖くなかったが)
主人公マユとあの少女の関係性も好き。
親に棄てられる悲しみを知るマユの手で、あの少女
だけは救われた。恐怖で壊れてしまったマユとの
最後の対面はどうにも皮肉で、少しせつない。
池田エライザは良かった。あの少女との
シーンや最後の壊れた演技など特に。
そして貞子だ。
あまり怖くはなかったものの、それでも『リング2』
以来でやっとまともな貞子が登場したと思えた。
貞子が一度母に棄てられたという設定は『リング2』
で言及されていたが、今回はそこを掘り下げた形。
何より、彼女はもはや人ではない。怨念にのみ
突き動かされて害を為す狂った存在として
描いている点がまさに従来通りだと感じた。
生い立ちに同情すべき点はあれど、
あれには一切の同情も懇願も通用しない。
あくまで負の存在。あくまで悪意の塊。
...
以上!
オリジナルの監督が撮っただけあって貞子の描写に
不満は無いし、主要な人物も悪くないと思うけど……
じめじめとして重苦しい、後を引く恐怖というのは
殆ど無く、非常に残念。イマイチの2.5判定です。
20年経てば同じ監督でも作風は変わるし撮影手法も
変わる訳なので、オリジナルと同じような作品という
のは難しいとは思うけど……もう『リング』みたいな
雰囲気のしっかりしたJホラーは観られないのかねえ……。
<2019.05.25鑑賞>
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余談:
『ザ・リング:リバース』ではSNSをイマイチ
利用しきれなかった親戚のサマラちゃん。
そして今回Youtuberデビューに失敗した貞子さん。
やっぱネットを使いこなすには生身の人間として
お二人ともブランクが開き過ぎてたんかねえ。
ネットと幽霊というテーマは『回路』('01)で
なんだかんだ完成しちゃってたのかもしれない。