「何十年前の病院やねん!」閉鎖病棟 それぞれの朝 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
何十年前の病院やねん!
病院スタッフが鈍感すぎ。
精神科医療の専門家なら、由紀が入院した時の顛末には百歩じゃなくて億歩譲るとして(屋上の対応はありえん)、最初の退院の様子を見た時に、DVとはわからなくても、何かしらの手段を講じるはず。それでも、18歳という微妙な年令ー児相は関与しないけれどまだ未成年で入院させるのは本人の意思だけではできないーで、退院させてしまったとかの描写があるのならともかく…。
あの程度で保護室というのも、良い薬がなかった時代ならともかく…。しかも2度目の発作では、秀丸の関りで落ち着いているのに、病院での最初の発作の時はスタッフの関りで悪化しているって…( ゚Д゚)。
また、誰もが突っ込む重宗への対応。ありえん。
手続きふまない自主退院や、外泊後帰ってこない人への対応も、単に映画の都合上、描かれていないだけだと願いたい。
チュウさんの退院時の対応。もっとPSWとかが、退院してもやっていけるように、慎重に慎重を重ねて環境調整・お試ししてから退院させるよ。
そして何より家族の苦労も知らないでの発言。
病棟内の構成も、映画的にインパクトのある人・場面ばかりを集めたかな的な…。
うつ病の人だっているはずなのに、画面にはそれらしい人はでてこない。
チュウさんみたいな方の方が多いはずなのに…。
さらに、?なのが、あの程度で死刑?だったら、世の中死刑囚だらけだ。
あくまでフィクションであることを強調するかのような設定の数々…。
精神科医療に関わるものとして、
精神科病棟に入院と告げられてしまった当事者・家族と関わるものとして、
どんなふうに描かれているのかと恐る恐る鑑賞。
ああ、こんなの入院前の当事者が観たら、入院拒否されるなあ。自殺されかねないなあ。親子心中されないように気を配らねば。
精神科医療・入院とはを考えるには、この映画より、強烈に誇張・コメディ化されているけど『クワイエットルームにようこそ』の方がいいかもしれない。
原作未読。
精神科入院患者に「読め」と勧められた作品。積読になっていてご免m(__)m。きっと、当事者にとって人に勧めたくなるような作品なのだろう。
けれど、映画はどうだ。
監督はこの映画を通して何を描きたかったのだろう。
何年も前から脚本を温めてきたと何かで読んだ。その過程で、精神科医療についてのリサーチはしなかったのだろうか。
監督の頭の中は描き出されているが、実際の精神医療の現場の、温かさ・やりきれなさ・矛盾等々、一言では語れない雰囲気が出ていない。
当時者目線ではなく、当事者を”外”からみての雰囲気で作ってしまった、やっつけ仕事のような映画。なんでこうなる。
そして、手ぶれする映像。それで何を表現したかったのか?登場人物の不安定な気持ち?そんな小細工しなくても十分演技で表現できる役者を揃えているのに?反対に、監督の、この作品に対する腰の引け具合・腰が据わってない様が露呈している。
『愛を乞う人』の監督作品。
『怒り』『そこのみにて輝く』で、繊細な演技に魅了された綾野氏。
『渇き。』で印象的だった小松さん。
『かもめ食堂』の小林さん。
『ディア・ドクター』の鶴瓶師匠。
と期待度UP.
木野さん、渋川氏も出演されていて、と芸達者だらけなのに、不発。
綾野氏は器用な役者で注目しているけれど、今回は器用さに驕ってリサーチ怠った?出演作が目白押しだもの。
最初の発声は神木君か?というような感じで、「役に合わせて発声も変えている」と昔読んだインタビュー記事を思い出して、期待度UP。繊細さは出ていたけれど…。
でも、幻聴と一緒に生きる運命を背負ってしまった人の思いがなおざり。自分自身を自分でコントロールできないってどういうことか、わかる?〇〇しなきゃいけないけれど、ついあとまわしにしてしまうなんてレベルではないんだよ。原因とかなくて、ある日突然そうなっちゃうんだ。描いていた将来とかが、一瞬飛んでしまうんだ。「賽の河原」と表現された方もいらっしゃったっけ(そのあと取り戻す人とか、別の将来を見つける人もいらっしゃるけれど)。
尤も、一口で「幻聴とともに生きる運命を背負ってしまった」といっても、お一人お一人違うから、簡単ではないけれど。
(㊟幻聴は、統合失調症にしかない症状ではありません。別の状況でも起こりえる)
小松さん。インタビューを読むとそれなりに”調査”はしたらしいが…。
これも”DV被害者”と言っても、何歳から被害を受けていたかで、表情・症状の出方は全く違う。つい最近被害にあいだした設定なのかな?役作りが中途半端。
渋川氏。『半世界』しか知らなかったから、そのふり幅の大きさに驚いたけれど、ただの粗暴な人にしか見えなかった。
薬物中毒。どんな経緯で薬物にはまったのか。薬物に手を出すまでの性格。そして、中毒治療がどのステージなのか。離脱症状の出方。なんの薬物なのか。薬物によっては脳器質への作用による性格変容もあり得るのだけれど。
『レインマン』のホフマン氏。
『ギルバートグレイプ』のディカプリオ氏。
ともに、自分が演じる症状を持つ方々の特徴をつかむために、何か月も施設に通ったと聞く。
『7月4日に生まれて』のトム様は、日常生活も車椅子で過ごしたという。
日本にはそこまでやる覚悟のある役者はいないということか。
残念。
三人とも、個人的には注目株。だからこその苦言。惜しい。
そもそも、監督が何年も企画を温めていたけれど、”病”について何も調べなかったのだろう。
そんな中途半端な思いで、この企画に携わって欲しくなかった。
それでも、木野さんのはりついたような笑顔とか、
脇を固めていらした方々が、特徴を持つ愛おしい人々を愛おしく演じられているので☆2.5。
≪2024.5.4追記≫
この映画を観て感動するくらいなら『むかしMattoの町があった』マルコ・トゥルコ監督作品。2010年2/7と2/8に放映されたTV映画の方が格段に良い。イタリアには精神病院がない。その運動の中心となったバザーリア医師を中心として精神病院を描いた実話ベースの作品。
自主上映か、大熊一夫氏著作についているDVDでしか鑑賞できないのがもったいない。
西国くん様
コメントありがとうございました。
映画大好きです。幸い「本当の人生の一本」と言いたくなるような映画も、『誰も知らない』『怒り』『太陽の王子ホルスの大冒険』『レインマン』『ギルバートグレイプ』『レナードの朝』『タップス』『ホテルルワンダ』等等、何本も見つかっています。だから、映画鑑賞止められないのですけれどね。
でも、それ以上に、ここに描かれている精神科医療を必要とする人・家族と、その人々と共に生きていこうとする人々(≒スタッフ)が大大大好きです。
だからこの映画での姿勢に腹が立つのです。
原作は未読ですが、原作を読んだ方からは、重宗に関する描写でさえ、彼の苦しみ、そしてやりきれない救いが描かれていると聞きます。人生リセットするしかないかもしれない人はいるかもしれないけれど、殺されていい人なんていません。
監督が描きたい物語を作るために、精神障碍者が安易に利用されちゃったかな。しかも、監督以外の役者等も安易に考えたかなというところが腹が立つのです。
彼らの苦しさやもがきを理解しようともしないで、表面的に”らしく”演じればいい。なんだそれ。
この映画に感動した人は、この厄介な症状を抱えた人に出会い、その厄介さに触れたとたん、閉鎖病棟に隔離して自分と切り離そうとするんだよな。中弥の家族みたいに。
もっと、厄介な症状を持つ方々に真剣に向き合ってほしい。
パワハラやブラック企業…、災害や事故によるPTSD…。いつ何時、彼らの世界の住人になるかもしれないのですから。
オルグ様
コメントありがとうございました。
『クワイエットルームにようこそ』がお気に召したようで、よかったです。
これからも、お互いにステキな映画との出会いを楽しみましょう。
「クワイエットルームにようこそ」借りて観てきました。
すてきな出会いをありがとう。おっしゃるとおりでした!
こちらの映画であなたと似たような不満をいだいておりましたので、よい口直しになりました。