「ホラー的な、呪いとか、そんな何かは・・・」マローボーン家の掟 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラー的な、呪いとか、そんな何かは・・・
この作品が面白い理由は、冒頭から家族の秘密が明かされるときまで、終始ホラーの様相にもかかわらず、結局は全然ホラー作品ではないことだと思う。まあある意味、真実の物語もホラー的ではあるけれど。
つまり、ホラーではない物語をホラーっぽく仕上げているわけで、オチがどうとか、怖くないだとか、肩透かしだとか、そんなことはどうでもよくて、巧妙に仕掛けられてたなと感心するしかないのです。
何か恐ろしいもの、ホラー的な呪いとかそんなものから逃れたかのように物語が始まり、早々に母親が亡くなる。
このときに長男ジャックと、21歳になるまで隠れるようにと約束をするが、やはりホラー的な、呪いとかそんなものに対抗するためかと思わせておいて、実はもっと現実的な、兄弟たちは未成年ですから保護者がいなくなれば施設に入ることになり、それを回避するためにジャックが保護者になれる年齢まで隠れるようにという意味だった。
ホラーの雰囲気全開なのにホラー的な何かは一向に現れず、しかし、覆われた鏡、入ってはいけない屋根裏、ジャック一人だけのオープニング、何かある度に気絶から目覚めているジャック、砦、と、今にも呪い的な何かが飛び出してきてもおかしくない雰囲気はすごかった。
何者かによる銃撃により窓が割れる。この後時間が飛び、よくある展開のような錯覚を起こすが、普通この場合「6ヶ月前」に飛ぶものであり「6ヶ月後」に飛ぶのは斬新。
この間に何かがあったことは明白で、それがなんなのか、ホラー的な、呪いとかそんな何かかな?とどうしても考えてしまうが、やはりそんな呪い的なものは飛び出してこない。
半分も観ればホラー的な何かは恐らくもう出てこないと気付くが、変に意識をホラー展開に割かれたせいで不可解な部分を上手いこと誤魔化されたよね。
頻繁に気絶から目覚めるジャックだけとっても、あんな床に倒れている状態で放置されてるとか、どう考えても不自然でしょ?だけど、ホラー的な何かかと雰囲気に飲まれて納得してしまうもの。
そんなに大したストーリーではないものを上手くホラーで味付けして巧みに仕上げたよね。
エンディング、ジャックはアリーから贈られた家族の写真をのぞきこみ顔が映る。
鏡を恐れて封印していたのはジャック自身だ。鏡に家族が映らない事実を恐れた。
この後に観た違う映画で、体の死と心の死について考えていた。ジェーン、ビリー、サムの体は死に心はジャックの中で生きた、ということだと思う。
三人の体の死も心の死も受け入れられなかったジャックが、家族の映った鏡といえるものを貰い、彼らの体の死を受け入れ乗り越えたといえる名シーンだったかと思う。もう鏡を怖がる必要はないのだ。