「妄想世界的には傑作だけど」フォードvsフェラーリ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
妄想世界的には傑作だけど
こんなに評価に困る映画もなかなか無い。割と面白かった、とは思うんだけど、映像的醍醐味が無いというか、映像だけで伝わってくる深みが無いというか…。
この映画は「史実に基づく伝記物」な訳で、事実自体がなかなかにドラマティックではあるものの、邦題がアピールするほどフォードとフェラーリは闘っていないのが原因かもしれない。
原題は「Ford v Ferrari」だから、「フォードがフェラーリに勝利した」ととれる。
勝手にライバルを自負し、フォードの都合でフェラーリ打倒を掲げて勝負しているわけで、まぁ買収劇に利用された側面はあるものの、ぶっちゃけて言うとフォードの独り相撲なのだ。
そもそもフォード全体としては、レースにオール・インしているわけではない。「誰よりも速く走ること」が目的なのではなく、「誰よりも速く走ったら儲かる」が目的なのだから。
男のロマン的にレースに参戦しているフェラーリと、マーケティングで参戦しているフォード。熱量からして勝負にはならない。
そんな中、現場でレースに参戦しているチームやエンジニアやレーサーたちは、本気で「誰よりも速く走ること」に全てを賭けている。
ストーリーの内容が「フェラーリとの対決」と言うよりは「お仕事物」として進んでいくのはある意味致し方ないのかもしれない。
はじめに「映像的醍醐味が無い」と書いたが、一点だけ、中盤でシェルビーとマイルズが取っ組み合うシーンだけが、映画的な描写の最高潮だったと思う。
レースの為にマイルズを切るしかなかったシェルビーが、やっぱりマイルズがいなきゃダメだ!と腹を括ってやって来る。
マイルズだって、レースには参加したい。でも自分を切ったシェルビーを簡単に許す訳にはいかない。
ものすごい腐った目線で申し訳ないのだが、メンツと本音がぶつかり合う取っ組み合いは、愛してるがゆえに簡単には許せない二人のイチャイチャに見える。単なる痴話喧嘩じゃねーか。
それが証拠に、シェルビーはマイルズを振りほどくため一度缶詰を手に取るのに、わざわざ缶を放り投げ、やわらか〜いパンでマイルズを殴るのである!
シェルビー優しい!もう、これって愛じゃない?愛だよ!愛だよね?!
作品について調べてみると、元々はマイケル・マンが撮る予定だったみたい。
そっちの方が男臭〜い、オッサンだらけの油ぎった映画になってたよ。そっちが観たかったような気もする。
あ、でもマイケル・マンだったらあんなベーコンレタス風味のシーンは無くなっちゃうかな?
そう考えるとちょっと惜しい気もする。
