劇場公開日 2019年9月20日

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「本作は良く言えば特大ファール 悪く言えば、SF映画をなめるなです」アド・アストラ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0本作は良く言えば特大ファール 悪く言えば、SF映画をなめるなです

2019年10月3日
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SFファンです
なので大概のSFものには評価が甘くなります
しかし逆に厳しくしてしまう作品もあります
本作は後者です

本格時代劇の映画の触れ込みで、観てみたら着物の着方、刀の持ち方、かつらの付け方が出鱈目
肝心の殺陣は学芸会
これどう思いますか?

作品によって期待度というものがあります
料理でいえば、高級店の店構えをして綺麗な座敷に通されたなら、素晴らしい食材で手の込んだ料理がでて来るものと思います
美味しいかどうかは別であっても、とりあえず高級店としての料理人の腕は期待します
なのに、雑な包丁の入り方とか調理法や盛り付けでててきたらがっかりします
しかして来た料理は、立派な器に入ったインスタントラーメンだったのです
高級食材もなく、手の込んだ調理法もなく究極のインスタントラーメンですらなく

本作はそれです
SFの体裁を取っても結局は一個人の心理療法の物語ではがっかりです

たどりついたクライマックスも、主人公や登場人物への感動移入もさせてくれないのですから従って感動もなく、カタルシスもないのです

これならSFである必要はありませんし
文芸ものとしてもどうかと思います
じっくり腰を据えて文芸ものとして成立するように撮って頂ければ良いと思います

何を監督は語りたかったのか、この設定を使って何を表現したかったのか
こんなわけがない
真の隠されたテーマがあるのではないか?
そのヒントを掴もうと必死で観たにも関わらず、自分にはこの心理療法だったという結論以外に読みとる力は無かったです

科学考証ポリスなんて言葉があるらしい
SFの映像作品に対して、あれこれとここがおかしい、こんなことはあり得ないとかとか、クレームを入れる人々のことらしい
こんな人々の活躍のおかげで最近は作り手側が萎縮してSFから異世界ものファンタジー作品に逃げ出していると聞きます

そんな科学考証ポリスなんて百害あって一利なし
映像作品にはその演出上必要ならば、多少科学的におかしくても許されることです
宇宙空間で音がしても良いです
爆発して煙がモクモクでても迫力出るなら良いと思います
真空中にビームが軌跡を描いて飛び交うのも、科学的にあり得ない映像でもそういう映像の方が好きです
でも程度というものがあります
宇宙空間を酸素マスクだけで宇宙遊泳されたら流石に引きます

本作のものはそこまでひどくはありません
それでも疲れました

宇宙空間からの垂直落下は軌道エレベーターの下方だから、あれはそれで良いのかも知れない
チコクレーターから月裏側の米軍基地まで行くのになぜ与圧キャビン付きの月面車ではなくバギーなのか?
それも武装した者に襲撃が予想されるのに
そもそもなぜ物資の強奪が起こる状況なのか
何故に月面から、火星地表から宇宙船を打ち上げしなければならなかったのか
などなどの次々に浮かぶ疑問を自分なりに理屈を総動員して組み立てて納得していくのに忙しくて内容に集中できもしなかったからです

特撮は良いシーンが沢山あります
特撮部隊やセット美術の部隊は良い仕事をしていると思います
絵コンテにあったであろういい絵を映像にしています
それらを繋ぎ合わせたら素晴らしいSF映画になる?
とんでもない
その証拠が本作なのです

本作は良く言えば特大ファール
悪く言えば、SF映画をなめるなです

SF映画に甘いSFファンとして良いクオリティであった特撮とセット美術に免じて星1つオマケです

それでも本作を是非映画館で観て頂きたいです
それも出来ればIMAXの大画面で
特撮は素晴らしいのです
SF映画は時代劇や西部劇のように斜陽のジャンルです
一人でも多くの人に観て頂ければ次のSF映画が作られることに繋がります
何時の日にか2001年宇宙の旅を超える21世紀らしい真のSF映画が撮られることに繋がるのです

あき240