劇場公開日 2020年1月24日

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テリー・ギリアムのドン・キホーテ : 映画評論・批評

2020年1月14日更新

2020年1月24日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

“呪われた作品”は研ぎ澄まされ、これまで以上に純粋な怪作になった

未来世紀ブラジル」「バロン」「フィッシャーキング」、またモンティパイソン時代のアニメーションなど、テリー・ギリアムが世に送り出してきた傑作の数々は、今もあちらこちらで影響を色濃く見出すことができる。とはいえ世代が若くなれば若くなるほど“伝説の天才監督なんです!”と言われてピンと来ないのも仕方がない。今も血気盛んとはいえギリアムはもう79歳の老人なのだ。

そして若い世代のみなさんが、ギリアムが20年がかりで、いや、構想段階にさかのぼれば30年がかりでこの“呪われた作品”を完成させた偉業について熱弁されたところで、やっぱりピンと来ることはないと思う。だが79歳の老人がこの映画に注ぎ込んだ凄まじいエネルギーとイマジネーションは、得体の知れない凄みとして感じられるのではないだろうか。

冒頭に挙げた作品群に限らず、ギリアムはいくつもの“傑作”をものにしているのだが、同時に“傑作”から逸脱せずにいられない業の深い映画作家でもある。イマジネーションが豊かすぎて、または反骨精神が強すぎ、そして情熱の総量が大きすぎて、映画を行儀良くまとめることができない癖の持ち主なのだ。

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テリー・ギリアムのドン・キホーテ」も、「CMディレクターの主人公が自分をドン・キホーテだと信じる老人に冒険旅行に連れ出される」というプロットはあるものの、ストーリーは曲がりくねり、脇道に迷い込み、迷ったことすら当然とばかりに先へ先へと進んでいく。そもそもが老人の狂気に巻き込まれていくお話なのだから、ハチャメチャ上等、理路整然としているわけがない。

そしてギリアムは、彼が生涯かけて描き続けてきたテーマを、不器用に、しかしパワフルに繰り返してみせる。クソみたいな現実に、空想や妄想で立ち向かうことはできるのか? 苦節の日々はギリアムをヘコませるどころか、思想や信念をさらに研ぎ澄ませ、これまで以上に純粋な怪作ができあがったように思う。

きっとギリアム映画に慣れていない人は、何度も「なんだこりゃ?」と疑問符にぶち当たるだろう。しかし本作のラストで、ギリアムは明らかに次の世代にバトンを渡そうとしている。観客側にはその想いに応える義理も義務もないが、79歳の食えない爺さんが渾身の想いで手渡そうとしているバトンがどんなものか、観ていただく価値は必ずあると信じている。

村山章

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