「アイデア一本勝負。それ以上でも以下でもない。」イエスタデイ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
アイデア一本勝負。それ以上でも以下でもない。
まず何を置いても、着想を褒めないといけないと思う。出来上がった映画を見てあれこれ言うのは簡単だけど、このアイデアを閃き、またそれがビートルズでなければ成立し得ない話だと気づくことが、ゼロからイチを作る才能。それを忘れてはいけない。素晴らしい。
ただもうほとんどその着想一本だけで物語を作ったような映画だった。アイデア勝負となれば、そのアイデアをどこまで物語として充実した内容にできるかがリチャード・カーティスの脚本家としての勝負所ということになるのだろうか。
と思った時にふと「総理大臣が記憶を失くしたら?」という着想だけで一本の映画を撮った三谷幸喜のことを思い出したりして。
リチャード・カーティスにせよ三谷幸喜にせよ、結果、アイデア以上の展開に行きつくでもなく、観る前も観た後も「アイデア勝負の映画だ」という印象から何も変わらないのは残念なところ。カーティスなりにアイデアだけでなくいろいろと工夫をしようとした形跡こそ見受けられるものの、それがまたかえって話をごたつかせた気がしないでもない。ましてや終始ビートルズの楽曲におんぶにだっこ状態で、些か人の褌で相撲を取ったようなもの。エド・シーランまで担ぎ出してもはやドーピング状態?
加えて、リチャード・カーティスが元来ロマコメ畑の人だからか、どうしてもクライマックスあたりでラブストーリー色が強まってしまったのは余計だったのでは?という気もする。結果恋愛で終わらせるのか・・・と言う感じ。
ただカーティスが頑張ったのはビートルズにならなかった時のジョン・レノンにしっかり思いを馳せたこと。そしてビートルズにならなかったとてジョンの人生はきっと素晴らしかっただろうと(ともすれば安易かもしれないが)そう結論付けたこと。ビートルズがいない世界で一番人生が大きく変わるのはまさか主人公の青年ではなく、ジョンとポールとジョージとリンゴだ。この辺のシーンの解釈は観る人によって印象が違うかも知れないと思うけれど、でもこの映画はジョンと対峙するあのシーンをとても丁寧に敬意を払って作り上げていたように感じられたので、私は良いと思った。
そしてこの映画の一番の功労者は実はケイト・マッキノンじゃないかと思う。彼女だけはダニー・ボイルにもリチャード・カーティスにもビートルズにも何にも飲み込まれず自分のコメディを繰り広げて間違いなく一番面白かった。監督がダニー・ボイルだというのが俄かに信じられないほど生ぬるい作品の中で、彼女の存在がちょっとしたスパイスになって引き締めてくれたと思う。