「私達の恐怖と無自覚」アス grantorinoさんの映画レビュー(感想・評価)
私達の恐怖と無自覚
「幽霊より怖いのは人間」、「他人より自分を知るべき」というよく言われているようなことが嫌味なく物語に練り込まれ、最初から最後まで楽しく(ビビりながら)鑑賞。
窮地を脱して行くほどに、逆に主人公家族の人間性が問われ、追い詰めていく意地悪な展開が最高。
コミュニケーションを図るとき、誰もが相手を必要とする。
その相手は、一般的には「他人」と呼ばれる。
その「他人」が「自分」だったら?
その「自分」が牙を向いて向かってきて、自分が「自分」を打ちのめしたとき、自分の中にいるもう一人の自分がやったという言い訳すら許されない。
だって、もう一人の自分は目の前に倒れているのだから。
私がやったのだから。
やったのは、私自身なのだから。
それ故に本作は「us(私達)」なのだ。
本作は純粋なホラー映画として十分に楽しめるが、現在の社会情勢に対する監督の憂慮が随所から伝わってきて、私にはそれを無視することができなかった。
それは侵入者の「私達」家族が何者であるのかを問われた際の返答に顕著に表れている。
本作はアメリカにとっては移民問題であり、全世界的な排他的な潮流を投影している。
自分が声高に非難する相手は「自分」であり、その「自分」を排除した自分は何者でもなくなる、もしくは怪物に成り果てるというメッセージではないかと感じた。
人類皆兄弟なんて青臭い博愛主義にしか聞こえないかもしれないが、そんなことをあえて問い直さないといけない状態なんだという監督の強い危機感なのではないかと思う。
自分に牙を向く相手にどう対処するか。
本作は黙って耐えることは要求しない。
ただ自分の言動の攻撃性に無自覚な者は相手と全く同質であるし、相手を打ち負かしても自分すら残らない。
本作には序盤から自分の攻撃性に自覚的な登場人物が一人だけいた。
だがその人物の最期の表情に監督の憂慮が透けて見える。
まだまだ語り尽くせない。
これが監督の力量、この映画の力なんだと思う。