ちいさな独裁者のレビュー・感想・評価
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「服は人を変える」の悪い例
日本版のポスターが秀逸だと思う。主演俳優の顔をカットして軍服を全面に押し出す。主人公は軍服に操られる存在に過ぎない、真の主役は軍服なのだと力強く訴えている。
着る服によって気分が変わることは誰でもあるだろう。しかし、その効果は強すぎた場合、この映画が描くようなことは誰にでも起こりうるかもしれない。服は人を変える力がある。これはそれが悪い方向に変わってしまった場合の物語だ。ナチスの軍服は、その意味で非常に完成度が高いと言える。ただの若造にあれだけの威厳と権力を与えてしまうほどに強力なデザインだったということだ。
しかし、服だけであれだけ人間性が変わってしまうことがあるのだろうか。服という外部要因だけでまるで違う人間に変身してしまうとしたら、人間の本質とは何なのか。玉ねぎの皮のように剥き続けたら、中には何も残らないもので、どこまでも外部要因の積み重ねでしかないのだろうか。そういう人間の本質の空洞さのようなものが見えるから本作は恐ろしい。
ちいさな独裁者を作り上げたもの
ドイツ映画らしい、白と黒がシャープな、モノクロに少し色がついたような映像は、この時代設定の作品にはとても合っていて良い。
デジタル加工された昔の写真のような、鮮明な暗さが人も世も荒れまくっていた雰囲気をよく表せてた。
脱走兵ヘロルトが、偶然見つけた大尉の軍服を着ることで変わっていく様を描いた、実話を元にした作品。
軍服の権力が持つパワーに飲み込まれ人間性を失ったというのが大筋で合っているだろうが、細かく見ていくとパワーに飲み込まれているのはヘロルトだけではないとわかる。
最初はただ軍服を着ていただけだ。そこにフライタークが現れ「大尉殿」と呼ぶ。それに応えるようにヘロルトは大尉のように振る舞い始める。
そのあとの村で、略奪をしている脱走兵に対し、酒場の主人は秩序を守ってくださいと要求する。自分が生き残るためにも人を殺せなかったヘロルトが、脱走兵を射殺することになる。
お次は囚人収監所のシュッテだ。彼は脱走兵や略奪犯である囚人を即決裁判で処刑したい。しかし自分にはその権限がない。そこで、それを実行できそうなヘロルトに対し要求をする。
やはりヘロルトはその要求に応えて処刑を実行する。
大尉の軍服に宿るパワーを利用したのは、それを着ていたヘロルトではなく、最初はフライタークが大尉の庇護下に入ろうと利用し、シュッテが即決裁判のために利用した。ヘロルト隊の面々は大尉がニセモノであると薄々わかっていながらそれを利用する。
そして、本来は持っていないパワーを行使し続けることで軍服の権力にだけ宿っていたパワーが、軍服を脱いだヘロルトにも乗り移り、気が付けば狂人ヘロルトの出来上がりだ。
人間性を失いおかしくなっていく人、最初からおかしい人、おかしくなることを強要される人、多くの人がおかしくなっていく中で最初のきっかけを作った人は誰だ?
大局では戦争を始めた人、とかあるだろうが、少なくとも本作の中だけに限っていえば「秩序を守ってください」と要求した、軍人ですらない酒場の主人だったのではないか?
つまり狂人ヘロルトを作り上げたのは一般市民である彼だったとも言える。軍人さんが権力使って無茶苦茶しましたなんて単純なものではない。
酒場の主人が「連行してくれ」と言えばそれで終わったはずなのだ。
エンドロールで、現代のドイツの街中でヘロルト隊の面々が一般人とおぼしき人を取り囲み、物を奪ったり服を脱がせたりしている映像が入る。
これの意味するところは正直よくわからなかったけれど、「彼らは私たちだ」という監督のコメントから、パワーに飲み込まれるな、狂人を作り上げるな、そして、自分で善悪の判断をしろと言っているように感じた。
しかしこれが実話ベースとは、終戦間際の混沌ぶりが透けて見えて面白いよね。
極端に言えば総統の名前を出してハッタリかませばまかり通るような混沌ぶりだし、二十歳そこそこの上等兵が大尉の振りしてバレない程に秩序なんてなかったんだろうな。
これ実話なのがは凄いしヘロルトが20歳そこそこの若者だった事に驚愕...
これ実話なのがは凄いしヘロルトが20歳そこそこの若者だった事に驚愕しました。
面白い作品と言ったら語弊があるがそれでも観て欲しいです。
このヘロルトは若者だからこその度胸ぷりなのか頭もキレる強者なのか、ブレーメンの音楽隊の様にどんどん仲間を増やして行くザマはなんだか感動すらした。
そしてこんな残忍な事が出来るのは逆に幼さゆえなのだろうか?
この手の作品は見終わって気分はかなり悪くなるのが普通だが、何故かそんなに落ちなかった。
エンドロールもなんか笑えてしまった。
不条理なコメディである。
これはコメディである。しかし、
ヘロルト♥その後なんてどうでも良かった。説明すべきでは無かった。
エンドロールでの時間を超越した『ヘロルト即決裁判所』の町中を行くシーンだけで良かったのだ。『処刑に処する』なんと馬鹿馬鹿しいお言葉。まさに
画竜点睛を欠いているのだ。
初頭の場面でトランペットの奏でる音楽が不協和音そのもので掴みはOKだったのですが『実話に基づくお話』と出る代わりに『処刑された』は聞きたくなかった。こう言った奴は残っているはずだ。
胸糞映画
普段戦争映画は観ないのですが何となく観てみました
脱走兵の虐殺シーンは終始胸糞悪かったです。
それにしても収容所での電話のやり取りで何故バレ
なかったのかが不思議、だって存在しないはずの大尉のはずなのに
なんで全権任せられる事になっちゃうの?
まぁ本人の才能+戦争末期での混乱等色々要素は
あったのでしょう。
それと戦争映画という事で今のウクライナ情勢も重なりました
ロシア軍による民間人への虐殺などヘロルド達がやってた
脱走兵への無慈悲な大量虐殺とやってる事同じ・・・いや現実は
子供を含めた非戦闘員が犠牲になっているのでそれ以上の悪逆非道な
振る舞いですよね。
ロシア側にも大義がない戦いに駆り出されたであろう若いロシア兵の
中には訳もわからず死んだ者や当然脱走した者もいるんじゃないかな、
映画での極限状態での狂気ぶりを見ていると今これと同じ事が
たった一人の権力者のせいで現実に行われているんだと思うと
胸が痛むばかりです。
口から生まれた
エンドロールで、ハロルトが21歳だったという若さに驚いた。天才的に人を騙す口が達者で、度胸もあったのだろう。脱走兵のハロルトは偶然、大尉の軍服を盗み、初めは空腹のため、食料を手に入れたが、仲間を引き連れ、次第に権力そのものに取り憑かれていく。初めはバレやしないか、ヒヤヒヤしたが、脱走兵を虐殺シーンは胸糞悪い。しかし、映画の後半に、退廃的なシーンがあり、何を伝えたいのか、よく分からなかった。狂い出したということなのか。人は身なりで判断してしまう典型、気を付けよう。。
脱走兵が偶然見つけた軍服で大尉になりすます。弱い立場の主人公を最初...
脱走兵が偶然見つけた軍服で大尉になりすます。弱い立場の主人公を最初は応援してしまう。今にもバレるのではとハラハラドキドキ。
この主人公の変貌っぷりが最大の見どころ。グロ描写注意!エロは終盤、少しだけ(笑)
ほぼ実話というのが衝撃。生きるためなら人はこんなにも…戦争の恐ろしさよ。
ナチスの映画を観ると、つい自分の国のことを考えてしまう。
ハリウッド映画では残虐な悪役を一手に引き受けている感のあるナチスだけど、この映画を観ると、脱走兵の処分に司法を介在させようとしたり、少なくとも自国の兵士の人権については配慮されていたんだね。
そうなると、つい人権どころか人命さえ軽視された、わが国の軍隊はどんなだったか、なんて考えちゃう。
ひどい話がいくらでもあったんじゃないかな。
そんな話が映画化されたら、って思うけど、この国じゃそんなこと、まずありえない。
だって、この国って、いまだに大日本帝国だもん(笑)。
アナログな時代だったからこそあり得た
脱走兵がたまたま乗り捨てられていた車両から大尉の軍服を発見。これを着て大尉になりすまし道中で出会った兵士たちを自分の傘下に置いて権力を振りかざすという今までにないナチスもの作品。
今じゃありえないけどアナログな動乱時代なら有りかと。え〜っ実話なの。終戦間近だとナチスは弱っていたんだね。支配される側が支配する方にまわった際の残酷さに言葉を失った。
誰でも「なれる」怖さ
1945年、ドイツ軍脱走兵ヘロルトは、命からがら逃げる中で偶然にも大尉の制服を手に入れる。初めは同じ脱走兵を、民家に着けば民間人を、「自分は大尉である」と毅然とした態度で欺いていく。罪を犯した脱走兵達の収容で食い扶持がなくなりつつある屯所ではその脱走兵達を殺すことにもっともらしい理由をつける。幾度も正体がバレそうになりながら、偽りの権力は増長を続け……
ヘロルトの正体がバレる?バレない?というサスペンス。本来脱走兵のヘロルトが「脱走兵は軍規に違反する売国奴だ!」と追及するお前が言うななシニカルコメディ。そして笑えない大量虐殺。
事実は小説より奇なりを地で行く話。
そんなの簡単にバレそうなのにバレない。怪しいと思っても借り物の権力に付いていく兵士もいる。創作ならご都合主義だなーと呆れますが、この映画は不自然じゃない。なぜなら実話を基にしているから。
戦乱の弱った人々が毅然とした態度と口先だけの男に扇動されていく様子はどうしてもヒトラーとナチスに被ります。
直接グロはありませんが、人が人を容赦なく殺すシーンはたくさんあります。戦争映画でならそういうのもあるだろうと見るのですが、この映画の場合敵国ではなくドイツ兵がドイツ兵やドイツ民を殺すので後味の悪さがすごいです。
この映画で人が殺されるシーンはほぼ遠巻きに眺めるようなロングショット。派手な殺戮による恐怖を目的には撮られていません。
アップが多用されるのはヘロルトの表情変化。
身分証を求められた時の焦りつつも大尉らしさを失うまいとしている所や、「どこかで見た」と言われてややぎこちなくなる所。
「完全に怪しい」じゃなく「違和感がある」くらいの挙動になっているので、視聴者側も「もしやバレた?まだいけるのか?」というスリルをヘロルト視点で味わってしまいます。
バレたら殺される。バレなければ好き放題できる。ヘロルトの立場に立ったら自分はどうするでしょうか。
自分のために権力に従うふりをする奴、権力者に心酔したように媚を売る奴、やり方がおかしいと思いながら別の権力に従うしかない奴、やり方がおかしいと訴えて殺されてしまう奴…ヘロルトが増長していく点だけでなく、周囲の人間のさまざまな考えもかいま見える所が面白いと思いました。
また、これなら騙されてしまうかもという堂々演技するヘロルトを描く一方、大量虐殺シーンで銃声に合わせて叫ぶ所や、ラストの字幕で保身の嘘をつきまくったことを描写することで、やはりヘロルト自身は卑怯な虎の威を借る狐であり、裁判などでの模範軍人的言葉は虚構であったと示しています。
間違っても「ヘロルトけっこうカッコいい奴じゃん」とならない演出をしっかりしている辺りに作り手のバランス感覚の良さを感じました。
スタッフロールでの、現代の街でへロルトら即決裁判所連中が横暴をふるう様子は「帰ってきたヒトラー」に通じるものを感じました。
この映画が怖いのは、「権力への盲従による愚行」がまた今も繰り返されそう、若しくはすでに今も形を変えて繰り返されているからです。
え!実話なの!?
盗んだ制服で、どんどん偉そうになっていくヘロルト
実際二十歳の男に周りがどんどん騙されていく。
当時のドイツ、ヒトラーの威光、勲章や制服に惑わされ、どれだけ権威主義体制なのかがわかる。
それにしてもヘロルトの口のうまさ、結構堂々としていて確かにその辺の才はあるのだろう。
だがラスト、悪事がばれてまた脱走するあたりが所詮口先だけなんだなぁと落胆する。
まあ、日本もこんな風に口先だけのバカが多いので大して変わらないんだろう。
エンドロールは滑稽でとても良かった。
狂気的
前半はなんとなしに面白おかしく観ていたが、気づいた頃にはある意味引いてた自分がいた。
その狂気的な振る舞いは他の兵隊たちをあざむき、むしろ自分たちが略奪や殺戮を繰り返しエスカレートしていくわけだが、考えてみたら騙すヘロルトも騙される兵隊たちも初めからクズなわけで、最後にはお互いの立場も理解しながら止められない流れの中愚行を繰り返していく。
これが事実だということがにわかに信じられないし、劇中の最後の一言には衝撃だった。
ほんとに本当の出来事か??今の感覚でははかれないほど、めちゃめちゃな時代だったのだろう…
いやぁしかし話変わりますが、はきはきとしたドイツ語ってかっこいいですな!
《鑑賞履歴》
2022/9/12
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