「Belle Époque」ディリリとパリの時間旅行 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
Belle Époque
まずはフランスの歴史を少々知っていないと飲み込みの悪い作品だということを予め知らしめて置く。19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914年)までのパリの繁栄で絢爛豪奢な時代が舞台設定なので、どこかで聞いたことのある偉人が多数ゲスト出演しているので、実は同じ時期にこんなにも濃密にそれぞれが活躍していた時代だったのだと改めて驚く背景である。逆にこの前後はさほど有名人が出現していなかったことを考えるに、神は均等にその才能を送り込む力はないのだなぁと思ったりしたのだが・・・
本作はテーマとして『人種差別』、『ミソジニー』といった偏見を打破するという明快な内容であり、それをアニメーションで表現する手法で制作された作品である。前述の時代に果たしてこういった思想が存在していたのかどうか不明だが、現在の発想を過去に遡って当てはめていく方法は、確かにストレートで気持が良く溜飲が下がる。それを稀代の偉人達がヘルプしながら事件を解決してゆくなんてのは古今東西同じような発想が世界に発生する一つの世界観なのだろう。実際は連帯なんてものは存在していないが、ファンタジーとしてお互いが知り合いだったならばという設定はワクワクせずにはいられない。そもそもが本作はかなりセンセーショナルなパンチを観客にお見舞いしてくる。『人間動物園』なる事実は今の時代当然人権問題化することを、人間は当たり前の様にやっていた訳だ。そう思うと“人権”というこのあやふやな思想は、常に訴え続けないと直ぐに消え去ってしまう脆い思考なのだと考えさせられる。そして次に出てくるおぞましき思考は“四つ足”。頭の狂った男共の思考は、現代であってもアメリカの五大湖辺りのラストベルトでは当然の思想であることに愕然とするし、教育の限界に力尽きる思いが支配してしまう。本作ではそれをお抱えの運転手の思想転換によって形勢逆転するのだが、果たしてリアルの男達は決して転身しないのだろうなぁと、ヤフコメのミソジニー住人たちを寂しく感じたりする。ラストはファンタジー色に終わり、それなりのカタルシスを得られるような作りになっているのだが、その物語を飾る様々な画作りは、どこかでみたようなイメージが頭を過ぎり、あぁ『紙兎ロペ』のそれだと気が付く。背景画は本作では写真画像なのかそれとも精密な風景画なのか分らないが、人物とのマッチメイクが悪く、それを逆手に取って面白味をだす演出の“ロペ”と違い、あくまでも観光ガイドのような引き出し方をしている今作は違和感が拭えない画である。しかし評価すべき点は劇伴を含めた音楽、特にラストの飛行船を降りる前のエマ・カルヴェ役のオペラ歌手の歌声には痺れっぱなしであった。
確かに色々な要素が詰め込まれすぎる感を大いに持ったし、もう少しシンプルに、具体的に言えばあんなに偉人を沢山出す必要があるのか、まるであの多数の出演は、ディリリが誘拐された後に居場所を知らしめる為に下水に流したメモの紙片の為だけなのかと、穿った見方をしてしまったりするので、そもそもが物語のテーマ性である“人権”問題に集中させたほうが感情移入しやすいのでは思うのが、今の時代、それだけじゃ足りないのだろうか・・・ “天気の子”の背景画の美しさみたいのも一つの個性だろうから、こういう作りも又構成されたオリジナルなのであろう。