象は静かに座っている

劇場公開日:

象は静かに座っている

解説・あらすじ

中国北部の地方都市に暮らす別の境遇にいる男女4人の1日を4時間近い長尺で描き、第68回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャルメンションを獲得した一作。監督のフー・ボーはこれがデビュー作だったが、作品完成直後に自ら命を絶ち、遺作にもなった。かつては炭鉱業で隆盛しながらも、今では廃れてしまった中国の小さな田舎町。友達をかばった少年ブーは、町で幅を利かせているチェンの弟で不良の同級生シュアイをあやまって階段から突き落としてしまう。チェンたちに追われて町を出ようとするブーは、友人のリンや近所の老人ジンも巻き込んでいく。それぞれが事情を抱える4人は、2300キロ離れた先にある満州里にいるという、1日中ただ座り続けている奇妙な象の存在にわずかな希望を求めて歩き出す。

2018年製作/234分/中国
原題または英題:大象席地而坐 An Elephant Sitting Still
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2019年11月2日

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(C)Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

映画レビュー

4.5処女作、遺作、傑作

2025年6月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

難しい

斬新

いや、すごい。ものすごい映画だ。長回しの映像、自然光での撮影(なので室内シーンはやたら暗い)、たっぷり取られた台詞の間。あらゆる意味でどっしりとした重さのある映画だった。映画館で公開された際には234分という長さに躊躇して、どうしようか迷ってるうちに観逃してしまった。失敗でした。これは映画館で観るべき映画だった。暗く重い映画だが、その暗さと重さが素晴らしい。出口のない絶望しかない灰色の地方都市から、どこか遠くにある別の世界へと旅立とうとする孤独な人々の姿が、コロナ下で越境もできなかった公開当時の我々の姿に重なる。登場人物たちの心情に静かに共感してしまった。

監督のフー・ボーは初の長編映画である本作を完成させた後に、29歳の若さで自ら命を絶ったとのことで、これが唯一の長編映画となってしまったが、その後ベルリン映画祭で国際批評家連盟賞と最優秀新人監督賞を獲り、台湾金馬奨でも最優秀作品賞を獲っている。そして主演の4人であるポン・ユーチャン、ワン・ユーウェン、チャン・ユー、リー・ツォンシーが本当に素晴らしい。個人的には若手女優のワン・ユーウェンが特に良かった。これ以前に脇役で出てたドラマ『三国志 Secret of Three Kingdoms』で見てたのは後で調べて気づいたが、可愛いし演技も上手い。

果てしない暗闇の中で、本当にあるかどうかも定かでない、わずかな光に微かな希望を託し、腐った世界から脱け出そうとする孤独な人々の1日間を描いた、これは紛れもない傑作です。

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バラージ

3.5象は二度と立ち上がらなかった

2023年3月24日
iPhoneアプリから投稿

死の匂いに包まれた山中の寂れた街。シャローフォーカスのぼやけた視界によって記名性を剥ぎ取られた風景は、どこにでも存在しうる普遍的な空間として我々に提示される。満州里にうっすらとユートピアの幻想を抱くブーを、ジンは「どこへ行こうが変わらない」と諭す。

劇中では街の狭間でそれぞれに固有の懊悩を抱える人々の姿が描き出されるが、彼らの苦悩もまたありふれたものに過ぎない。チェンの彼女は不幸な己の感傷を並べ立てる彼に向かって「そんなのは誰だって同じ」と言い放つ。

自己否定や自己憐憫は、自分を素直に肯定できなくなってしまった者が自他の境界を策定するために用いる苦肉の策だ。だがそれさえもがありふれたものだという。苦しみは兌換紙幣で、俺の苦しみはお前の苦しみだ。ゆえに俺とお前は同じ人間。とすれば「俺」なるものも「お前」なるものも存在しない。じゃあ俺が生きてる意味って何?

(そんなものは、無い。)

何もかもが意味を成さない絶対的な虚無世界。そこから抜け出せるかもしれない唯一の手段は死ぬことだ。死後の世界もまた虚無だとしても、生きながら虚無を感じ続けるよりは遥かにマシだ。死は救済。死ねば楽になる。

しかしその単純明快な悟りを受け入れられず、人々は迂回と遅延を重ねる。窓から外へ出て玄関に回り込んでみたり、怪しい切符転売人に付いていく途中で立ち止まってみたり。あるいは「俺の気持ちは誰にもわからない」と強がってみせたり。だが死の欲望は抗いがたく押し寄せる。誤射に脚を撃ち抜かれたチェンが苦悶のあわいに浮かべる笑顔。

生への転轍点を通り過ぎてしまった物語は、したがって死へと急速に直進する。ブーとリンとジンは夜行バスに乗って満州里の動物園を目指す。

満州里の動物園にいるという一日中座ったままの象。それは死のアレゴリーだ。4本の脚で3トンもの自重を支えている象は、一度座ると再び立ち上がるのに大変な労力を要する。老化や怪我で身体機能の落ちた象などは座ったが最後、二度と立ち上がれずにそのまま死んでしまうことも多いという。つまり一日中座ったままの象というのは、死期の迫った象であるといえる。

真っ暗な闇夜の中、バスを降りた乗客たちが象の鳴き声を耳にする。そこで映画は幕を閉じる。

本作を撮り上げた直後、監督のフー・ボーは自ら命を絶った。世界を覆う虚無の前に跪いた彼が立ち上がることは、二度となかった。

俺自身はこの映画の言いたいことに納得できない。仏にこんなことを言うのも酷だが、生きていることや自己存在の意味について、もっと長い時間をかけて考えてみてもよかったんじゃないか。「俺」と「お前」を分かつ何かが本当はあったんじゃないか。生への転轍点を実は見落としていたんじゃないか。そんなことを思ってしまう。

彼の死の原因が何であるかはわからない。理由を問おうにも既に当人がこの世にいないのだから。ひょっとしたらその不可侵性だけが自己存在の絶対的な刻印になると考えてのことかもしれない、がこれも邪推だろう。

いずれにせよ29歳というのは若すぎる。彼の作家的軌跡をもっと追いかけたかった。

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因果

5.0人はなぜこのような街を作ってしまったのか

2021年11月12日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
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redir

5.0【世の中は、悪意と嘘と”偶発的な不幸”に満ちている。それでも、僕らは”逆境下でも生き抜く”信念を持って生きていく・・。】

2021年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

幸せ

ー 満州里の動物園に行かないか?。何に対しても、何が起こっても、悠然と座っている象を見るために・・。ー

◆感想

 1.4時間越えのストーリーを、飽くことなく一気に魅せる、瑕疵なき脚本の素晴らしさ。

 2.それは、何の関係性もないと思われる、”居場所のない””虚無感漂う””生きる術を見失った”老若男女たちを、見事に一つのストーリーに収束させる、ストーリーテリングに尽きる。

 3.各パートごとに、主要人物にフォーカスし、背景は暈した撮影技法。そしてそれが、観客に及ぼす”様々な想像を掻き立てる”手法の見事さ。

 4.色彩トーンも、限りなくモノクロに近く、登場人物たちが抱える、世に対する怒り、絶望、諦観を表現した世界観を醸成している。

 5.メイン役者さんたちの、抑制した演技も鑑賞後に、深い余韻を残す。

<今作に関しては、敢えてストーリーには触れない。
 エンドロールでも流れるが、これほどのハイレベルの長編を監督第一作として、世に出しながら早逝してしまったフー・ボー監督に敬意と共に弔意を捧げます。>

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NOBU

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