幻土
配信開始日:2019年4月12日
配信開始日:2019年4月12日
アジア太平洋映画賞発表 作品賞に「万引き家族」
2018年11月30日ロカルノ映画祭金豹賞 シンガポールの新鋭監督が描く、埋め立て工事と移民の物語
2018年11月20日第19回東京フィルメックス、審査委員長はウェイン・ワン監督 公募の新人監督賞を実施
2018年10月4日シンガポールの埋め立て海岸線は各地の砂でできたマボロシみたいなもん。
リンチのようなノワール風味に、シンガポール自身は描かれたくない社会性をまぶした二面性のあるシンガポールの裏を映し出した不思議作品。
不思議な映画だった。
サスペンスを観るような心意気で、フワッとした空気の中それでも何か意味や伏線があるんだと注意深く鑑賞していたというのに最後まで突き放されて終わってしまった。
茫然自失である…
この映画を観てから少し調べて初めて知ったことだけど、シンガポールという国は海を埋め立てて国土を広げているとのこと。
1960年から国土面積が25%の拡張。
埋め立て用の砂は到底国内では賄いきれないのでマレーシア、カンボジア、インドネシア、ベトナムなど周辺の国から輸入している。
去年のニュースによると、カンボジアは砂の出荷を停止しマレーシアも輸出を大幅に制限し始めたようだけど、この埋め立て計画はまだずっと続くらしい。
数年で国の形が変わってしまうというまさに幻の土地で、終わりの見えない労働に身を費やす異国からの移民たち。
クリーンな都市のイメージの強いシンガポールだけど、その裏の実態を描いた物語だった。
様々な問題が浮き彫りにされているけど、決して説教臭いタッチではなく幻想的でスタイリッシュな映像演出が心地良かった。
どれだけ酷い扱いを受けても取り繕わなければいけない労働者や、毅然として見えても結局男を慰めて生活の足しにしている女がこちらを見つめる表情と強くもどこかうつろな眼が忘れられない。
しかし出来事をポンと示されるだけで押しつけがましくなく、これを観て何を思おうと許される空気が好き。
不眠症刑事のロクがなぜワンを追っていたのか劇中では示されない。
バグったゲームのように歪な現実の中に飲み込まれていくしかない多数の弱者に寄り添うためなのかなと思った。
毎日共に働いていた者たちすら気にも止めない存在を、仕事の機械ではなくたしかに一人の人間として拾い上げるために。
夢で一直線に繋がるつくりが好き。
夢と現実、ロク刑事とワンの境界がうまく掴めないので混乱するし正直本当によくわからないんだけども。
最初は硬派な感じの刑事からどんどん邪気が抜けていく様子が面白かった。完全にキャラ変してて可愛い。
何かを受け入れたのか、誰かが混ざったのか。
私もバングラデシュの人たちの歌と演奏で踊りたい。
過酷な労働現場の画力の強さに改めて圧倒された。工場夜景好きにも刺さりそう。
ネオン輝くネカフェも好き。光るヘッドフォンやマウスがとても綺麗。
劇伴音楽が全部良かった。歌謡曲のようなやつも、終盤流れる女声のエレクトリカルな曲も。
しかしどうしても全裸ランニングマシーンが分からない。なぜなのか。
なぜ下も脱いだのか?なぜ横向きで撮ったのか?なぜチラチラと見せてくるのか?
絶対に下着履いてるほうが走りやすいと思うんだが。いや知らないけど。
いかんせん刑事がしぶくてかっこいいイケおじだったので余計にそのギャップが強烈だった。
なぜなのだ。正直笑いを噛み殺すのに必死だった。
ストーリー上なんの脈絡無く性的なシーンでもなく、ただただかっこいいおじさんが全裸でランニングマシーンをしているところを真横から見せられるこの衝撃は一生忘れないと思う。別に嫌じゃなかったけど。