「「寅さんを、これからも語り継いでいってほしい。」山田洋次監督のそん...」男はつらいよ お帰り 寅さん こしひかりさんの映画レビュー(感想・評価)
「寅さんを、これからも語り継いでいってほしい。」山田洋次監督のそん...
「寅さんを、これからも語り継いでいってほしい。」山田洋次監督のそんなメッセージを感じる作品であり、それがしっかりと伝わってくる作品。山田監督が50年間描き続けてきた笑いと涙が凝縮されている。
今の時代に生きる人々の日常とこれからをしっかりと軸に据えつつ、過去49作の名シーンを随所に織り込み、最後は歴代マドンナの姿がダイジェストでよみがえる。それでいて一つの家族のストーリーとして完成されている。スタッフの方々の並々ならぬ思いを感じさせる。
一度は結婚するも、最愛(であっただろう)妻を亡くし年頃の娘と二人暮らし、脱サラし小説家となった満男。ヨーロッパに渡って苦学の末国連職員となり、家庭を持ったイズミ。物語は、自身が「おじさん」の世代になった満男と、偶然の再会を果たしたイズミとの「奇跡的な3日間」を中心に進む。
二人は、寅さんが愛したリリーの営むジャズ喫茶で懐かしき日々に思いをはせる一方、イズミの父が余生を送る三浦半島の老人ホームで現実と向き合う。短い日本での滞在を終えたイズミを成田で見送る満男。別れ際に、抑えていた思いがあふれ出る。若いころ燃えるような恋をした二人が結ばれることはなかったが、お互いへの深い愛情をしまい込みそれぞれの日常に戻ってゆく。そしておそらく満男には、新しい幸せが待っている…。
なんだかんだ言って、寅さんのDNAを受け継ぐ満男の周りに、美しい女性が存在するのはうらやましくもある。
後藤久美子の出演について賛否があるようだが、50作の物語の連続性を考えた時、イズミ役はやはり彼女しかいないだろう。山田監督は自ら筆を執り、出演を懇願する手紙を送ったと語っている。イズミの役どころは、実生活でもヨーロッパで家庭を築いている彼女の現在の姿を投影させたものであることも、山田監督の深い思いを感じる。
また、オープニングテーマの桑田佳祐の歌唱についてこれまた賛否があるようだが、エンディングで渥美清さんオリジナルのテーマが流されることを引き立たせるための演出であるのだと思う。むろん「男はつらいよ」という物語の深みを歌にこめて表現できることが必須であり、それができるのは桑田さんをおいて他にはいないという判断だったのだろう。
今作初めて登場する出演者も数多く、いずれも物語になくてはならない存在だが、中でも満男の娘であるユリの存在感はひときわ際立っていた。お父さん世代の多くの人々に「こんな娘がいたらいいなぁ。」と思わせる素直で優しい娘を演じた桜田ひよりさんに特に大きな拍手を贈りたい。子役時代からモデルや女優として多くの作品に出演しているようだが、この作品で存在を知った人も(特にお父さん世代には)多いのではないか。
いずれにせよ、寅さんのセルフオマージュともいえる作品を、これだけの完成形にして私たちのもとに届けてくれた皆さんに、心から感謝申し上げたいと思う。
オープニングの桑田佳祐の件、実に同感です。
桑田は昔の歌を何でも旨くこなすけど、最後の渥美清の歌には遠く及ばないと目頭を熱くしながら、実感しました。
山田監督のメッセージでもあったと思います。
それをわかっていながら、引き受けた桑田佳祐の渥美清愛と男気を思うと、さらに泣けてしまいます。
倍賞千恵子もものすごくきれいな温かな声で、何を歌っても良いなぁと思います。
二人は歌に関しては実に謙虚な天才だと思います。