「それぞれの苦境、それぞれの生き方。」楽園(2019) アサンキリンさんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの苦境、それぞれの生き方。
「犯人は誰なのか?」を主題とするパターンで展開される王道ミステリーのサスペンス調かと思いきや…
事件をめぐる長い軸が貫かれているわけではなく、事件を起点にそれぞれの苦しみに生きる限界集落の人々の人間ドラマが重なり合い、厚みを生み出している作品。
だから、事件の犯人や、その手掛かりはことごとく伏せられたまま未解決で幕を閉じてモヤモヤは多少残るものの、そこはむしろ要点ではない。
事件によって皆が別々の傷を追い、そこからの歩み方も全く違う。大小様々な感情や衝動が各々の内側に渦巻き、各所でぶつかり合い、観る側が痛々しく思えるほどに人間臭い。人の醜さが生々しい。
だからこそ観賞後のベースとなる感情は胸糞悪いものかもしれないし、痛みを伴って「楽園などあるのか?(反語)」と問うているのかもしれない。
振り返れば、それぞれの苦境や傷跡から立ち直ろうと必死に考え方や生き方を工夫する登場人物が確かに存在したという事実に、ふと勇気づけられる。こんな風に考えられたら、こんな風に生きられたら…と思える部分が確かにある。
この人は、あれからどんな生き方をしたか?
そこを見つめながら、不器用な登場人物たちを愛しながら観ると、この作品の厚みを感じられるかもしれない。丁寧に見つめて愛せば何か感じるものがあるのは、出演者の高い演技力のお陰。
とりわけ杉咲花は「湯を沸かすほど熱い愛」の熱演でさらに個人的な注目度は増していたが、やはり逆境に立ち向かうパワーと健気さを表現する引き出しが多く、期待しか感じない。
余談。
上白石萌音の主題歌が作品と最高にマッチしていて、胸糞悪さを軽減し希望を見出せるよう導いてくれる陰の立役者になっている。
そしてヌードを披露した片岡礼子は、50歳手前にして美しい身体。いやらしさよりも美しさが勝っている。