「自然」ラストレター ヨッシーさんの映画レビュー(感想・評価)
自然
岩井俊二さんの作品は初観賞。
まず印象に残ったのは演者の演技。全ての俳優さんの演技がとても自然で作品への没入度も高まっていた。特に森七菜さんの演技が印象に残った。
福山さんが無精髭を生やしたりしているのに対して森さんや、広瀬すずさんが基本白の衣装ととてつもない透明感の演技で、対比を効かせていて青春というものの瑞々しさを感じた。
このお話の主人公は誰なんだろうか?Wikipediaを見ると、主演は松たか子さんとある。だが主演であって主人公ではない。いや、主人公ではあるのだが・・・
結論から言うと、主要キャスト四人全員主人公だと思う。
乙坂、裕里、鮎美、ふうか。それぞれがこのお話を通して、変わっていっている。
乙坂は、新たな小説を書く勇気、小説家としての自負。
恐らく阿藤に酒場で「お前は何も生み出してない。未咲の人生になんの影響も与えてない。」と言われたときは言い返せなかった乙坂も物語の最後の時はきちんと反論することができるのであろう。
裕里は、先輩への捨てきれなかった憧れ、姉の死に関する後悔。先輩への捨てきれなかった憧れというものが根底にあるからこそ乙坂との文通のシーンや、乙坂と再び対面する時にそこはかとない危うさ、色っぽさがあったのではないだろうか。2人は最後まで手も握らないのに何故か文通のシーンなど、いけない事(不倫)をしているかのような感覚があった。
鮎美は青春の謳歌。思い返せば鮎美が出てくるシーンは実家など家族関係が殆どで学校での友達関係などが描かれていない。だからこそ、母が死んで、親戚もいるのになにか孤独さを感じた。しかし、乙坂から母の話を聞いて母の昔の卒業式の挨拶を読んだ彼女はこの物語の後それまでの分もめいいっぱい青春を謳歌するのであろう。
ふうかは、思春期。思春期ゆえの大人に言えない悩みなどが、夏休みを鮎美と過ごして、乙坂と出会い、未咲の話を読むことによってそんな悩みを持つ自分も肯定しようと、そんな変化を感じた。
また、上手いなと思うのは客がその世界に没入するまでは基本裕里目線でいき、没入したかなと言う頃合いを見計らって、乙坂視点へと自然に変化していくことである。
この視点の移り変わりになんの違和感も感じさせないのはすごいと思った。