「「誰かが想い続けていたらその人は生きていることになるんじゃないでしょうか」」ラストレター いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「誰かが想い続けていたらその人は生きていることになるんじゃないでしょうか」
自殺した姉、その姉を忘れられない元恋人、その男を憧れていた妹、そして姉の娘。姉以外の三人それぞれの群像劇をシームレスに溶け合うような構図で描き出す、岩井俊二ワールドに満ちた映像で溢れる作品である。
岩井監督作品で印象に残るのは『リップヴァンウィンクルの花嫁』であった。今作品はロケ地が出身地ということで思い入れもひとしおなのだろうと想像する。
兎に角、キャストが豪華だ。監督のキャスティングであるならば、その力は凄まじい。まぁ、それだけではないだろうけど、誰もが主役を張っている俳優や、ミュージシャン、話題の人物達をチョイスできるだけでも驚く。庵野監督を引っ張り出した自体で何か別の力が働いたんじゃないかと訝しく感じる程だwもし、日本アカデミー賞にキャスティング部門なるものがあったならば間違いなく今作だと断言できる。音楽に小林武史を引き入れたのも特筆だ
そして、ストーリーも又ハードでアダルティだが、そこはきちんと優しさでオブラートしている作りでバランスを保った仕上げである。
何より、久しぶりに福山雅治の“自信がない人物役”を観れたことが興味深い。普段の尊大な役柄が常の彼が、これ程の矮小な役を演じていること自体、希有なのかも知れない。松たか子のコメディエンヌ振りや、トヨエツ&中山美穂のヤサグレ感の安定も、確かにデジャヴ感と言ってしまえばそれまでだが、しかし基礎がシッカリできてるからこその盤石の布陣と呼べるのであって、芸能界で長い間一線で活躍してきた人の凄みを感じずにはいられない演技である。そんな布陣だからこそ、敢えてチャレンジをした役柄の福山が一際目を惹く演出に応える事が出来たのだと思う。一方、広瀬すずも堂々たる演技だ。脚本の作りも絶妙で、敢えて自死の前のDVを受けていた頃の姉を登場させないことで、一番不幸で心身共にボロボロの状態を周りの情報のみで伝えた事で、鑑賞者それぞれの想像として落ち着かせたことが或る意味ナイスアイデアだと感じた。これならば輝いていた頃の姉として、広瀬を二役に演じさせることが出来る。メインストリートがシッカリしていれば、多少同時並行の脇道が多分に破綻していても何とか力任せに駆動はできる。まぁ、妹の手紙の嘘が又繰り返されるのを、お見通しで文通することや、同時に姉の娘との文通も始まることで違和感を覚えるだろう事への説明がないことの不親切感も、原作として岩井監督が発表しているのかは定かではないが、その辺りの綻びは多分制作側の編集優先があったのだろうから、致し方ない。姉がなぜトヨエツ演じるDV男に転がってしまったのか等々、説明不足も散見される中、それでもきっちり悲しみの涙を流させる演出力は大したものである。
ドローンによる空中からの俯瞰撮影の多用等、意図を訊いてみたいカットもあるのだが、それでも、トヨエツと福山の酒場での圧巻の会話劇のシーンや、クライマックスの霊前でのシーン、些末だが印象的なそれぞれのヒロイン達からサインをねだられるカットなど、心に残る画力を紡ぎ出す岩井監督の映像作家としての実力に感服させられる。
劇伴の効果的な挿入にも感服する、監督の健在さをアピールされた堂々たる作品であった。
PS.“なかたがい”高校っていうセンスも光っていたよw
>もりのいぶきさん
稚拙な駄文をお読み下さり、ありがとうございます
言葉の語彙が乏しく、自分が表現したい文章が構築出来ず弱っています(苦笑
貴殿のような文章が書ければなぁと羨ましいです
いぱねまさん。
お邪魔いたします。
>ボロボロの状態を周りの情報のみで伝えた事で、
>鑑賞者それぞれの想像として落ち着かせた
そうですね。
そう考えると納得がいきます。うん。
そこには思い至りませんでした。