「慕情」ラストレター U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
慕情
実に不思議な気分だ。
清らかな清流が人の骸をコロコロと運んでくるような。それに驚くでもなく慄くでもなく、ただただ目の前を通り過ぎてくのを眺めてる。
なんでこんな感想なのかはよくは分からない。この状態にどんな呼称があるのか分からない。だから、分からないから一生懸命書いてみようと思う。
ノスタルジックな青春の幻影の話なのかと思ってた。それはそれで、おそらくはそのまま進んでも心に残る作品になったと思う。
だけど、監督はまるで白紙に墨汁をぶち撒けるように破壊する。その過去の幻影に逃げこもうとする観客の胸ぐらを掴んで、人混みの喧騒と雑踏の中に引き戻す。
「どおして??」
そんな物語にしなくても良かったじゃない!そんなものが見たいわけじゃないんだよ!
軽く発狂しそうになる。
夢など見せてくれなかった。
作品は不思議な交錯をしていく。
未来への憧憬と過去への憧憬が交錯していく。まだ何者でもなかった頃、何者にかになるであろう将来に想いを馳せる。
もう何者にもなれないと現実と向き合った時、あの頃は良かったと過去の時間に想いを馳せる。
結局のところプラスマイナス0のような事で、唖然とする自分に今気づく。
確かに時間は流れていて、過去の自分とは違う自分がいたりもするのだが、距離って概念はあっても時間って概念はあるのだろうかと疑問を抱いたり…。
いや、あるよね。
間違いなく僕らは老いていく。
でも、心はどおなのだろう?
形骸化しない心というものにも、果たして時間の概念は当てはまるのだろうか?
…どっちでもいいよね。
風化した方が幸せな事もあるし、忘れられないもしくは忘れたくない事もある。
緩やかにでも記憶が曖昧になっていく事を思えば心にも時間の概念は当てはまるのかもしれない。
道のりを見てるようであった。
ズタボロだな、とも思った。
片道切符とか。
どこまでも行ける片道切符を持ってるけど、その列車がどこに向かうのかは知らされない。
…なんかそんな言葉をどっかで聞いたな。
思い出される情景は、いつも暖かな日差しの中だったなぁとか。
今の情景はどこか陰鬱で、生活臭が蔓延してて暗かったり閉塞感があったり。
子供達に別れを告げた時は雨の中だった。
でも嫌な感じじゃなくて、洗い流してくれるかのような清潔感があったな。
若かりし頃に抱いた「夢」は中身は何も変わらないのに、いつから「欲」と名前を変えたのだろうか?
色々と…モヤモヤとした問い掛けばかりが頭に浮かぶ。
吐き出される言葉は多いものの、何を語ろうとしてるのか、よく分からない。
豊川氏が醸し出す負のオーラみたいなのはえげつなかった。出来れば今後の人生において対面したくないと思う。
中山美穂の枯れた感じが、この作品の象徴とも思えてゾワっとする。よくぞこの役を受けてくれたし、キャスティングしてくれたと絶賛したい。
広瀬さんのギャップが表現する事も多いと思う。あんな可憐な少女…いや、実際にはもう女性という年齢なんだけど、そんな彼女に降りかかり続けてる不幸とか、生い立ちとか。
「迎えにきてくれる」と告げたシーンなんかは可哀想で可哀想そうで、見てられなかった。彼女の母は選択を間違えたのかもしれないが、彼女には選択権がない。
健気というか、気丈というか…屈託なく笑う笑顔は実は一生懸命笑ってたんだろうなぁと思える。
木内みどりさんに会えたのも、俺的には幸運だった。染み出す仕草に祖母の半生を感じたりする。
松さんがアレをやってくれたから、この作品を最後まで諦めずに見れたような気もするし。ホッと出来るというか、なんなんだろう?
許されてるというか、包容力に近いものを感じてたような気がする。
そして森七菜さん。
絶品だった。
素朴な感じに癒される。
まるで付け合わせのポテトサラダのような感じで…メインディッシュで頼む事はないんだけれど、なんの料理を頼んでも必ず盛り付けられてるポテトサラダ。いつしかそのポテトサラダが食べたいが為に、その定食屋に通うような。
ホントにホントにあなたがいてくれて良かった。おいくつなんだろう?14歳と言われても俺は全く疑わないと思う。
海町ダイアリーで広瀬さんを見た時には、まるで太陽のような印象だったのだけれど、今作の森さんには森林浴をしてるような清涼さと静けさを感じてた。
その2人を見つけた福山氏
俺的には気に入らない。
あんな程度のリアクションなのだろうかと頭を捻る。いやもう誰に感情移入してるのか分からない程入り組んでるから、俺の感情が先走ってた感はする。
それでもだ!もっと狼狽えてもいいんじゃなかろうか…興を削がれた感じがして残念だった。
切り取られる絵は、常に儚げで美しく岩井ワールド全開だったんだけども、今作はコントラストと言おうか、敢えて影をぶつける事でノスタルジックな淡く眩い瞬間を際立たせたような印象だった。
人の死もそうだけど、いくら懸命に手を伸ばそうと金輪際届かないものはある。
過ぎてきた時間もその一つで、それを切り離すか、自らの経緯と捉えるか、それによっても「今」は変わるような気がする。
何の躊躇いもなく経緯と捉えられる環境にいるならば、それだけでこんなに幸運な事はないと思う。
なんだろう?
きっともう一度会いたいと思うだろうなとの予感がする作品だった。
雨の中、傘をさして佇む広瀬すずと森七菜のカットがなぜか懐かしく、失くしちゃいけない何かがあるような気がしてならない。
…俺ってロリコンなのかなぁ。
福山氏の何かとリンクしたんだろうなぁ。