女王陛下のお気に入り : 映画評論・批評
2019年2月12日更新
2019年2月15日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
宮廷も人間と人間がぶつかり合う”戦場”だった? 女同士の愛憎入り乱れる歴史劇
グレートブリテン王国最初の君主であり、スペインやフランスとの戦争を世界各地で繰り広げたアン女王。この説明だけ読むとリーダーシップに溢れた人に見えるけど、実際は肥満が原因の痛風に悩まされていて政治活動はサボり気味。政策決定は幼馴染の側近サラに任せっきりだった。しかしサラの押し付けがましい態度に次第にうんざりしてきたアンは、”お気に入り”をサラの従妹アビゲイルにチェンジ。今度はアビゲイルの進言のまま、正反対の政策をとるようになる。女同士の愛憎が、当時世界最強の国家の政策を転換させたのだ。
ギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモスの最新作は、18世紀の英国の宮廷で実際に起きたこうした事件をベースにした歴史劇となった。とはいえ、ストーリー展開や登場人物のコスチュームは時代考証を意図的に無視。ピーター・グリーナウェイやデレク・ジャーマンの80年代作品を彷彿とさせるパンキッシュな感覚に満ちていて、80年代を知る者は懐かしさを、知らない者はアナーキーな魅力を感じるはず。
加えて、このジャンルでは通常用いられない超広角やスーパースローを多用した映像も新鮮だ。ランティモスは、戦場から遠く離れた宮廷も人間と人間がぶつかり合う”戦場”だったことを示そうとしているのかもしれない。
容姿にも才能にも恵まれず、王位だけが頼りの物悲しさを漂わせるアン役のオリヴィア・コールマン、冷酷な美女だが情に脆いところも持つサラ役のレイチェル・ワイズ、そして一見純真そうだけど実は一番狡猾なアビゲイル役のエマ・ストーンと、三人のメインキャストは皆好演。
この中ではコールマンが主演女優として多くの映画賞にノミネートされてはいるけど、実際は三人の登場シーンは均等で、本来なら全員で主演女優賞を獲得すべきだと思う……ていうか、そうであらねばならない。なぜなら本作は、三人の女が織りなす均衡状態を描いた映画なのだから。
(長谷川町蔵)