「「ここに居らして貰ってよかですか?」」この世界の(さらにいくつもの)片隅に いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「ここに居らして貰ってよかですか?」
前作に新カットを追加され、より原作に寄り添った内容になっている作品である。ネットで調べると原作にも無い独自の視点も織込まれていて、片淵監督の力の入り様がヒシヒシと感じられる渾身の一作である。それは単にリメイクしたというよりも、前作との伝えたいベクトルの違いを見事に表現されていて、同じストーリー展開なのに印象を角度の変化付けすることにより、印象や拡がる感情をより多層的に複雑化したリアリティを落とし込むことに成功した構成なのである。
実は、今作品を鑑賞する前に心に重石が乗っかかったような暗い気持が支配していた。それは、義姉からの慟哭と同一の罵倒シーン。あのアニメキャラ及び画の世界観との激しいギャップから繰広げられる不条理な出来事を又目に映さなければならないのかと暗澹な心持ちだったのである。ストーリーが進んでいき、確かに加えられたシーンや、特に『りん』のキャラクターの広がりのある展開は前作にない、アダルティで艶を混ぜた“文学”としての要素をグッとサルベージさせた展開で、より奥行きさを増した物語により傾倒していく自分を自覚できる。短いカットだが、夫婦のベッドシーンがあったりとその辺りのリアリズムを追求している覚悟も又深みのある演出に新鮮さを得る。前作でのボカした解釈(主に周作とりんとの関係性)もキチンと説明されていて、逆にこの辺りが趣向の分れるポイントかと思うが、丁寧な仕上げとしての好感を抱かせてくれる。しかしそれよりもその説明シーンを描く事で、主人公の多角的心情の表現を演出できたことが今作のキモなのではと強く感じる。周作の心情ははっきりとは表現していないが、この三角関係の深淵を想像する或る意味手がかりを提示することで、物語の奥深さをより一層構築できた作りなのである。
そして、問題のクライマックス・・・。あの胸を掻き毟るような不条理は、唯々登場人物達への同情に心が支配されてしまい、揺さぶられることしきりである。そうなったらもう作品への没入感が100%越えになってしまうのは避けられず、そこからのかなとこ雲と原爆雲との前後半の対峙の演出の見事さや、悲痛や困難さの負の感情を鮮やかに転換させる展開に、唯々滂沱の涙以外に心のダムを決壊させる感情を表現出来ないカタルシスの到来である。勿論、前作と同様、広島で拾った女の子のストーリーも相も変わらず感涙なのだが、今作はスタッフロール中のりんの物語も又、卑怯だと叫ぶほどのトドメの涙を止めることが出来なかった。正直に真面目に暮らしを営む。勿論、そこには嘘もあり、隠しておきたい真実もある。綻びに人は傷つき、そして途方に暮れる。しかしそれでも毎日は続く。戦争だけでなく、自然災害も“台風”という理不尽な力で苦しめられる。でも人間はそれを上手く手懐けるアイデアも持ち併せている事実を、今作品はメッセージとして発信している。アニメーションという手法を取ったその着想に又、敬服させられる作品なのである。でも、幸せな人生を、一部の恣意で犯してはならない、その想いだけは決して忘れないように胸に刻むのである。パーフェクトな作品、感謝である。