「史実を応用したスマートで、"もっともらしい"作品」アルキメデスの大戦 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
史実を応用したスマートで、"もっともらしい"作品
"戦艦大和"を切り口としたエンターテイメント作品。
原作は、「ドラゴン桜」の三田紀房による同名漫画。史実ではなくフィクションで、1930年代の日本が軍拡路線に進む中、世界の政治背景や、当時の大日本帝国海軍の軍備や技術力に関する事実を、"もっともらしく"楽しませてくれる。
漫画からの切り抜き方は実にスマートだ。これは戦意高揚の象徴となる"戦艦大和の建造阻止ドラマ"である。
オープニングを飾る、戦艦大和の撃沈シーンは、「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005/2007/2012)や、「永遠の0」(2013)の山崎貴監督と白組によるVFXで、さすが安定の仕上がり。
菅田将暉が、主人公の天才数学者・櫂直(かい ただし)を演じる。"学生"で"頭脳明晰"な役柄という意味では、コメディだったが「帝一の國」(2017)を彷彿とさせる。
1930年代、急速に航空技術が進み、現代に通じるミサイル技術などの萌芽が見られていた。
海軍少将の山本五十六(舘ひろし)は、これからの戦争は航空機が主体になり、巨大戦艦は不要になると考え、"対航空機戦に優れた空母の時代が来る"と予見していた。
しかし、平山忠道造船中将らの計画している巨大戦艦大和の建造案は、不当に安価な見積もりで、決定会議を通そうとしていた。
山本五十六は、戦艦大和の莫大な建造コストを算出し、建造計画の不正を暴くべく、天才数学者・櫂直を海軍にスカウトする。
"西の湯川(秀樹)、東の櫂"と呼ばれるほどの櫂は、100年に1人の逸材と評され、また"測りマニア"である。
軍事最高機密である、戦艦大和の設計図や計画情報は厚いベールに包まれ、一切のデータを得られない。さらに海軍内で妨害工作も行われるなか、櫂は持ち前の"測りマニア"の資質と、天才的な発想力で、戦艦大和の真の姿を計算する。
原作では、戦艦大和だけでなく、新型戦闘機競争試作や潜水艦、和製ジェットエンジン開発のエピソードなど、天才・櫂直のキャラクターがもっと楽しめる。
なにごとも"測ること"で、その存在をとらえる櫂は、"数字は嘘をつかない。数字こそが真の正義"と言う。
しかし数字に明るくない人は、数字で騙しやすいことも、また"真理"だったりする。本作の"もっともらしさ"も、史実を応用したトリックプレイみたいなもの。誰も劇中に出てくる"数式"なんて見ていないだろうし。
まったく関係ないが、最近、政治アナリストの伊藤惇夫氏がテレビで発言した名言、"数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う"が頭をよぎったりして・・・。
(2019/7/26/TOHOシネマズ日本橋/シネスコ)