「抗わない大人の愛に」マチネの終わりに nunaさんの映画レビュー(感想・評価)
抗わない大人の愛に
未来の有りかたが過ぎた月日を良いようにも残念なようにも変えるのだということ。これは不可抗力とも言えるべきもので、今、この時から刻々と過去になる「今」を精一杯生きることしか結局、人は出来ないんじゃないかと。
マチネの中でも、洋子さんの祖母の死因となった庭石が幼少期のままごと遊びの楽しい想い出に影を落としてしまったエピソード(負への転換)がある一方で、洋子さんの義父が母と自分を捨てた(離縁)とずっと思っていたのが、母の告白により自分達を護るためのやむを得ない事情からだった、義父は母と娘をずっと案じ愛してくれていたという真実に照らされた(正への転換)場面の両方を描いている。
初めて二人が出会った日に意気投合し、不思議な感覚を覚えながら、蒔野が洋子さんをタクシーに乗せ、微笑みながら別れるあのワンシーンでさえ、未来にとっては忘れ難き一瞬になりえる、でも誰にも分からないのだから、その時(今)は。
「今」が「過去」になってから分かりえることがあることを人は誰しも経験する。未来が過去を変えるとは、異なる未来によって受け止め方が変化してしまうということ。とても繊細なものだけれど、決して悲観する必要はないのかなと。
人を愛すること。
心が静かに躍動して行くシーンの美しさに胸をうたれました。
パリやニューヨーク、マドリードの陽光優しい街並みや室内の暗影はフィルム撮影の(映像美)、クラシックギターの美しく包み込まれるような音色(音楽)は、殊、力を入れて作られているのがよく分かります。石田ゆりこさん、福山雅治さんお二人の自然体で魅力的な存在(人間)が、一つの作品に向かって見事に融合され美しい世界観(ハーモニー)を奏でていると感動しました。ラストからの先の続きは、観た人それぞれが自分のものとして感じ入れば良いと思う。わたし的にはあの公園で相手を見つけた時の二人の表情が別々の道を生きていた時間や思いの深さを踏まえた上で、衝撃的な真実を知ってしまったあとの胸の内を物語っていて、あのカットで終わりになるのが心憎く、でもベストだなと。紛れもなく、一瞬が永遠に変わる場面でした(涙、涙)
原作はもっと多重的で二人の背景にある混沌とした世界観も踏まえて洗練された言葉を咀嚼するような楽しみがあったし、映画は限られた短い時間の中で先に述べたような最大限の魅力を堪能できます。組曲『幸福の硬貨』をはじめとした映画のサントラを心ゆくまで楽しみながら余韻を味わうひとときに癒されています。