凪待ちのレビュー・感想・評価
全325件中、121~140件目を表示
人生の喪失と再生
重苦しく、陰鬱で暗澹たる空気が終始充溢し続ける、決して笑って楽しめる映画ではありません。
己の才、己の知、そして己の縁を浪費し喪いつくして社会の底辺で蠢き、のたうつ中年男が、世の中から見放された孤独と閉塞から、唯一ギャンブルのみを捌け口として被虐的に自らは抑えようがなくのめり込み、周囲を巻き込んで徹底的に堕ちつくした上で、最後のやり直しを図る、人生の喪失と再生の物語といえます。
本作を観て、日本映画史のベスト5には必ず入る名作『浮雲』(1955年)に相通じるものが、私には感じられました。『浮雲』は、閉塞感と倦怠感に満ち溢れつつ、各々が狡猾で自分本位な男女の遣る瀬無く切ない関係を切々と綴ったものですが、本作は、この重苦しい空気感と殺伐とした他人との繋がりを一人の男に体現させて描いたように感じます。
『浮雲』で森雅之演じる富岡は、女にだらしなく、ずるずると堕落していく末に悲劇的終末を迎えるのに対し、本作の香取慎吾演じる郁男は、徹底してギャンブルに呑み込まれ、己ではどうしようもなくスパイラルに奈落に陥った末に再生の光明を見出しますが、何れも女の犠牲を生贄にしていく点が相似しているように思います。
白石和彌監督は、人間の心の奥底に潜むダークな本質を曝け出させ、対峙させ、そこに生じる荒ぶるドラマを作品化してきているように思いますが、本作もその延長線上に位置しているといえます。
主人公の、水草のように刹那的に唯々世の中を漂い彷徨うだけの日常の中で、自己嫌悪に陥り悶え苦しみながら、それでも抜けられない自堕落で自暴自棄の、愚かで、切なくて、哀しい生き方が、見事に描かれています。
特に、ユニークで斬新な撮影アングルとフレームの取り方と寄せカットの多用によって映像に緊張感と戦慄感が満ちており、更に手持ちカメラ撮影の落ち着かないカットの多用によって悲愴感と不安感が塗され、作品全体の画調が暗く沈んだものに仕上がっていました。
また、主たる舞台となる石巻、そしてその前段の舞台として作品に重要な意味合いをもつ川崎、その各々のエスタブリッシング・ショットとなる、片や不穏な予感を漂わせる石巻の街と港湾の遠景俯瞰、片や物語の軛となり物語進行のガイドレールとなる競輪場の描写は、観る者に強く不吉な印象を与えます。
主人公役の香取慎吾は、うらぶれた中年男の悲哀と孤独感と倦怠感をそれなりには巧く演じていたとは思いますが、己の意志の弱さに自己嫌悪に陥り苦悩し憔悴するまでには至らず、やや主人公のキャラクターをアピールしきれていないように感じます。
何より声音に張りがあり生気が感じられるのは違和感がします。真の役者なら、単に所作と台詞回しだけでなく声調もいくつかの抽斗を持つべきで、今後の彼の円熟に期待します。
かみごたえのある地味さ
白石和彌監督最新作。
香取慎吾主演。
白石和彌監督お得意のクライムサスペンスかと思いきや、話は香取慎吾扮する郁男に寄り添い、事件は起こるけれど郁男は何もせずただひたすら現実からにげるのでただ、ただ地味。
一番盛り上がるのは郁男が賭けで勝てるか固唾を呑んでじっと競輪を見るシーン。
それが人間の本質を見せてくれる。
とにかくダメな香取慎吾。
普段のイメージからは掛け離れた実年齢よりの顔と汚い立ち姿。
とにかくそれが良かった。
香取慎吾の存在感があっての映画。
ダメな1人の男の生き様を見る映画。
圧倒された
香取慎吾の演技力。人間力に圧倒された。
どうしようもないクズ野郎だけど根っこにはちゃんと愛がある。
悲しく切ない映画でした。
客席はSMAPファンで女性が多いかと思いきや男性客の方が多かった。犯人に聞きたい。なんで?アンサーは見つかるんだろうか?
映画が面白かったので本を買ってみた。じっくり答えを探そうと思う。
俺たち、ギャンブル依存症だろォ?
津波が多くを奪っていった。綺麗な海が残った。
最低で最低な男に津波が押し寄せて洗いざらい持ち去られる様、僅かに残ったものを描いた作品。
内縁状態の恋人とその娘。側から見ればかなり微妙な関係性は自分の家庭状況に若干似ていて(少し違うけど)、娘の美波に自分を重ねるようにして観ていた。
亜弓と郁男の出会いの詳細や二人を繋ぐ絆の描写は少ないけど、自然体の空気感や美波の態度から伝わるものがある。
母親を亡くすのは本当に辛い。この状況なら特に。
もしこれが自分の家族なら、と思って号泣してしまった。嫌だ。絶対に嫌だ。
亜弓の死に対して誰もが何かしらの後悔を抱いてしまうこの状態、やり場の無い喪失感と悔やんでも悔やみきれない念がしんどい。
犯人探しやその動機暴きの要素はかなり少なく、郁男の人となりにスポットが当てられる。
飲む打つキレる、競輪に金を溶かして堕落し続ける彼の姿にはため息しか出ない。
ただ、嫌悪感が少ない。
最悪の人間なのは間違いないけど、その嫌らしさや気持ち悪さよりも彼の哀しさや無様さが強く出ていて、常に「憐れな人」の印象だった。
香取慎吾の見た目や話す口調からそう思えたのかもしれない。
きっと競輪なんてもう楽しくはないんだろう。
やらずにはいられないだけで。
受付の兄ちゃんの呆れたような目線が刺さる。
パナマ諸島の美しい写真の中から出てきたものを抜いたとき、それを受け取ったとき、あまりの惨めさに軽く絶望した。
美波も亜弓も本当なんでこんな人に懐いたんだろう。
頑固ジジイで目もろくに合わせなかった勝美と大切な人を失った者同士、だんだん雪解けしていく様子は地味に嬉しかったけど。
しかし娘目線で観たとき、美波にはあるはずの激情があまり表現されていないことは少し引っかかる。
忘れた頃に突如判明する真相の一部にはびっくりした。いや何でだよ…なんとも言えない後味の悪さ。
この映画の焦点はそこではないとは分かっていても、事の中身を全て知りたい気持ちは収まらず、鑑賞から数日経った今でも考えてしまう。
終盤で見せる断絶の儀式と情けない咽びには胸を締め付けられ打たれた。
ここまで失ってやっと、やっとのこと。それもまた周りに世話になって。
予想できる未来に50万円を賭けたい。
文句なし大傑作!
久しぶりに勝手に涙が溢れた。じっとりしたよどんだ世界観のなかで描かれる人間模様を楽しんでもらいたい。愛に溢れた作品だとおもう。全て無駄なく、テンポよくみられる。映画を見たあとはしばらく余韻に包まれる。白石監督作品は初見だが、とても見やすかった。もっと知られて欲しい作品。香取慎吾最高でした。
主人公補正が生々しさの邪魔をする
稲垣・草彅両氏は脱退前からわりと多彩な役柄をこなしていたのに対し、香取君だけは見てて可哀想になってくる変な役柄ばっかりでしたが、本作では20才前後の頃に魅せた確かな演技力を再び見せてくれました。
ギャンブル依存症のクズがさらにロクデナシに堕ちていく様を丹念に描き、見てて辛くなるほどでした。
ずっしりと重い世界観はさすが白石監督というところでしょうか。
ただ、良作だというのは断った上で、話に入り込みにくい点があったのも事実。
まず主人公以上のガチクズが何人も出てくるので、主人公まだマシじゃんという思いがどうしても出てくるところ。
次に、クズな主人公にそれでも手を差し伸べる人が何人か出てくるけど、その根拠が弱いところ。
最後に、いくら主題ではないとはいえ、殺人犯の動機などが全く明かされず何で殺されたのかモヤモヤするところ。
最後以外はつまるところ「主人公だから」以上の理由が見当たらず、せっかくのリアリティの邪魔をしていた印象です。
うーん、香取慎吾が・・
香取慎吾の演技に期待して観たのですが、どこまで観ても、登場人物の「木野本郁男」ではなく、それを演じてる「タレントの香取慎吾」にしか見えませんでした。苦悩の谷に突き落とされた男の血のほとばしるような葛藤を観たかったけど、なんだか、ただ陰鬱な表情を続けてるだけで。なので、最後に泣いたシーンではしらけてしまった。ファンのみなさん、すみません。リリーフランキーは、ありがちな配役だけど、さすがの存在感でした。
ヒト
時折この手の映画に出くわす。
韓国の作品に多いのかな…。
なんでこおいう物を撮ろうと思うのか理解できなかったのだけど、字幕を追うのと、異国の物語として観るのとはまた違う印象が残った。
物語は悲惨である。
何が悲惨って、主人公が真っ当な人生を歩もうとするたびに邪魔が入る。
思うようにいかない。
真面目に、普通に生きようとする気持ちも努力も踏みにじられていく。
自暴自棄にもなるだろう…。
極端なシチュエーションの羅列ではあるが、実際に起こりうる事の範疇であったりもする。
原発の後始末をするのは国を憂いた人達ばかりではなく、にっちもさっちもいかなくなった連中が送りこまれるのだ。
綺麗事ではない現実がある。
いくら上部を塗り固めても、漏れ出してくる膿はある。
とかくこの世は生きにくい。
それがスタンダードであるかのように。
そんな中でも、救いはある。
自分を傷つけるのも救うのも、結局は人間でしかない。
彼が最後に手にした蜘蛛の糸。
今までとは少しだけ意味合いが違う。
そんな小さなキッカケが、その後の人生に大きな意味を持つかのようであった。
この手の映画をすすんで観ようとは思わないが、この手の映画を撮ろうと思う動機は分かったような気がする。
物事の大小はあれ、自分を観てるかのようにも思える。そんな感想。
何故、評価が高い………???
レビュー評価が高いので見てみたが、面白い理由が解らない・・・
人間のクズが人の優しさや情を裏切り続け、最愛の人の死をもってしても更生出来ない…………グズは何処までもクズと言うだけの話だと思う。
私にとっては感動も無ければ同意もない映画かと…………
わたしたちが、そこにいた
秀作です。
「だめなんだよ、おれは。死んだ方がいいんだよ。」という叫びは、心に刺さりました。
最先端の国の中で、そういう思いを感じながら、それでも捨てきれない今を生きている主人公。
最後は、別の終わらせ方もあったと思います。
だけど、この終わらせ方を選んだ白石監督に感謝します。
主人公に投げかけられた言葉の優しさが、非常に印象に残りました。
香取さんも熱演でした。
正しく生きたいと願いながら、それができなくて苦しむ主人公が、確かにそこにいました。
涙を流したシーンは、感動しました。
現代社会で生きる、たくさんの苦しんでいる人に、凪が訪れますように。
ただ受け入れるしかないのかも…
最低な人間の最低な行為をずーっと見せつけられる、あまりにもつらい映画。絵も奇麗じゃないし、ことごとく救いようがない出来事ばかり。
これは全くの他人事ではなく多少なりとも自分との共通した部分がある─そう自分もクソ野郎なのだ。だからこの映画は好きになれないし、拒絶したくなる。
しかし、香取慎吾の名演がそういう自分を逃がしてはくれない。彼の悲哀に最終的に共感してしまい、ダメな自分を受け入れざるを得なくなる。
本当に見るのがつらくて、もう二度と見たくないと今は思っているけれど、凄い映画だとただ受け入れるしかない。
賭ケグルイ
「忍者ハットリくん」や「こち亀」をやっていた香取くんがこんな役をやるなんて…と感慨深いものがある。映画では木村拓哉の方が出演作が多いし、刑事役から時代劇まで幅広いが、こんな生活感がある役はやらないだろうな。まあ、ジャニーズ事務所を抜けたからこそできたとも言える。
ギャンブルへの執着に抑制が効かないし、ぶち切れ方もちょっと尋常じゃなくて、共感しづらい主人公だが、それでもどうにか心を寄せようとして見ていると、やがて訪れるラストの家族像にしみじみする。
水中カメラがなめていく津波にさらわれて海底に沈んだ街の残骸には、ずしんと不意打ちを喰らった。
レビュー評価ほどでは無かった
比較的評価が高いのと、白石監督作品ということで、そこそこの期待感持って観たが、私的にはテレビサイズのなんともつまらない作品だった。
脱退後の香取の吹っ切れた感の演技を期待したが、これまた空振り。凄みも巧みさも無いし、小声の時は棒読みに近い。目元や肌質に、様々な苦労と老いを感じた。
徹底的に駄目だった男の再生ストーリーにしては、あまりに陳腐で甘過ぎる結末。何コレって感じ。白石監督は『虎狼の血』で燃え尽きてしまったのか?
リリーフランキーが出てたので期待したが、そこは納得の(ほぼ毎回、展開が凄いお決まりな)キーマン役だった。演技力とオーラは突出してた。
エンドロール画像も、かえって...なんかね...
余韻
ポスターを見て興味を持ち、鑑賞。終わる頃まで飲み物を飲む事を忘れていた。
息をこらして、抑えても溜息がでそうになる展開。
目をそらしたくなるが、離せない。何やってんだと髪の毛をぐしゃぐしゃにしてその後撫でてやりたくなった。ひとりじゃないからと。
終わって歩き出すのがやっとで、帰りの車も色んな感情が湧いてきた。
そして無性に、動かねば、何はなくとも微かで良いから動いてそこから生まれる波を受けたいと思った。香取さんの目と背中。やはり並大抵の事を経験してきてないから醸し出せるのではないか。許されるならばもう少し長く、周りの方の感情の動きも見てみたかったし、主人公の心のひだもまだまだ現せられるだろうと思った映画だった。とても良かった。
白石和彌は容赦ない
白石和彌監督作品は容赦ない。
こんなに駄目で、救いようのないどうしようもない人たちが遺されて、ただ一人しっかりしていた亜弓がいなくなり、駄目で駄目で優しい人達だけが遺されて、まだ打ちのめされて、それでも微かな希望に縋って、肩を寄せ合って生きてゆかなくてはならないのかと、その容赦無さに慄然とする。
だけど、エンドロールでも分かるとおり、その容赦の無さは震災を現しているんだよね。だから、どんなに理不尽な酷い目にあっても、僅かな希望を灯して生きてゆかなくてはならないと言っているんだよね。容赦無い…
でもだからこそ、最後にストーリー的な解決を(しかもふたつも)着けてしまったのは納得いかない。そういう安易なことじゃないだろう…
亜弓さんとの愛が感じられない。
自分の理解力が足りないのかもしれません。
でももう少しお二人の愛が見えるシーンがあれば、きっと全てが落ち着くところに落ち着くと思いました。
駄目男なのに、彼女もいて、彼女の娘、彼女の親からも愛されるって、無理がありますし。
どんだけ良い男なのかの描写でもよかった。
その二者どちらもないことが、腑に落ちない原因だと自分は確証しています。
ラストの海底シーンまでちゃんと観て帰る人が少なかったのもそのせいかも。
映画で「きちがい」久々に聞いた
競輪にのめり込んでいるろくでなしの博打打ちの物語である
だれが殺したのか?なぜ殺したのか?
観る前は内縁の妻を殺した真犯人を主人公が探す話かと思ったがその予想は見事に外れた
今はあちこちに防犯カメラはあるしDNA鑑定の正確性もずいぶん高まったから警察に任せればいいわけで素人探偵は必要ないのである
主人公がなぜ元夫を殴ったのかそのほかにも主人公の行動は理解できないがろくでなしだからで片付くのかもしれない
片付けられないのは「なぜ殺したのか?」がわからないまま終わってしまったことだ
だれが殺したのか?それはわかった!意外だったよ!でも動機が全くわからない
そいつもろくでなしだからで片付くことなのか?
エンドクレジットが終わったあと犯人が動機を話すかと思ったがそのまま終了
なんだよあのポスターは!
観客の皆さんの想像に任せます?丸投げかよ!
川崎時代の友人役を演じた役者さんの演技はお見事
絵に描いたような底辺
見事なダメ人間
健康診断で耳は正常だったからこっちの問題ではないと思うが末期癌を患っているおじいさん役の役者の滑舌が悪くセリフが聴き辛かった
本来なら3点だが地元石巻ということで4点
よく知っている地元がロケで使われるってとても嬉しいことです
駅から少し離れたところにある歓楽街寿町通りに国道45号線などなど
イオンシネマ石巻では香取くんとリリー・フランキーさんと西田尚美さんが実際に使用された衣装が展示されていました
大好きな西田さんの衣装の香りを嗅いでみましたが残念ながら無臭でした
わりと思ったよりも西田さんは細身
抱きしめたくなりました
全325件中、121~140件目を表示