「前作より好き。音楽も好き。」クリード 炎の宿敵 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
前作より好き。音楽も好き。
主人公アドニス、その妻ビアンカ、イワン・ドラゴ、ヴィクター・ドラゴ、アドニスの母メアリー・アン、もちろんロッキー…それぞれのキャラクターの視点で観られる作品なので、評価も様々になる気がします。
だから、批判的なレビュー投稿の中にも、なるほどと納得できるモノも多いです。
私は前作が個人的にはイマイチだったので我ながらロッキー愛に欠けていたかな、と今回は「ロッキー4 」を当時以来久しぶりに観て劇場にむかいました。
その分、ドラゴ親子に対する思い入れが強くなったことは否定できません。
かつてロッキーに負けたことで地位も名誉も失い屈辱を背負って生きてきた父親イワンが、それを遺伝子の様に引き継ぎ代理戦争に巻き込んだ息子に、最後は彼自身がタオルを投げてその呪縛から開放してやる(親のためではなく、恨みを晴らすためでもない。自分のための戦いなんだ)という流れはとても良いのですが、もう少し彼らの今後に希望を見せてあげないとあまりにも救いが無さ過ぎる気もしました。ただ、ラストでまたトレーニングを始める二人の姿を見せられることで、この親子に肩入れした私としてはよりこみ上げる何かがありました。
一方で、主人公に関する「なぜ、俺が戦うのか」という命題が、しっかりテーマとして描かれていて、前作よりも私には腑に落ちました。
生まれた子供の耳が不自由だったという事実に対してロッキーが「(あの子は)自分を憐れんではいないぞ」という言葉は、「自分の人生を評価するのは結局自分自身しかいない」という、主人公が悩んでいる事実への1つの解答であり、この挑戦が父親の仇討ちではなく、自分自身の戦いなのだという現実をちゃんと描いています。
そして選手達の鍛え抜かれた身体、そして最後の戦いに向けて仕上げた体躯のさらに素晴らしいこと。(荒野でのロードワークで倒れて立ち上がるシーンを感動風にしたのはちょっとどーかな、とは思いましたが)
社会的には「あのアポロ・クリードの息子」として非常に恵まれた環境で生まれた彼が、ボクサーとしての人生で出会う挫折と克服、という意味では前作よりもよっぽど説得力があると感じます。前作ではただの「坊っちゃんのワガママ」にも見えてしまった部分が、今回はちゃんとボクサーとして、父親として、男として、人間としての成長に繋がって描かれています。(1作目のファンの方は多い様ですが、私は断然こちら推しですね。)
飄々とした演技が光るシルベスター・スタローンの、ラストの息子との再会で見せたぎこちない雰囲気。ここも良かった。孫の子供がめちゃくちゃ可愛い。
奥さん役のテッサ・トンプソンもいい。
そして、その物語をドラマチックに飾る音楽がまた素晴らしい。
「ロッキー4」が当時MTV全盛期のサントラ主導という印象だったのに対して、本作の音楽はよりストーリーに対して緻密に練り込まれていて、何より音楽自体が「新しい」「新鮮」。
この時代の新たな英雄譚の始まりというにふさわしい楽曲が並んでいます。
とは言え、過去作を観ていなくてもメッセージはちゃんと伝わって来る様にできています。
ここまで書いておいてナンですが、この映画を決して傑作だとは思いません。
でも、シリーズと供に年齢を重ねたファンには、いろいろな感慨を抑えられない、そんな映画です。
ぜひ劇場でご覧下さい。