「“クリード”、“バルボア”、そして“ドラゴ”」クリード 炎の宿敵 財団DXさんの映画レビュー(感想・評価)
“クリード”、“バルボア”、そして“ドラゴ”
いきなり2019年ベスト映画が来てしまったのではないか。大方の予想をはるかに覆し、ライアン・クーグラーの名を世界に轟かせた前作からはや3年。“クリード”シリーズは重厚で壮大な家族の物語を描いてみせた。
アドニスは前作からさらに成長し、世界チャンピオンにまで上り詰める。現実世界でもマイケル・B・ジョーダンは『ブラックパンサー』でキルモンガーを演じて大スターとなっている。今作では肉体も演技もより堂々たるものとなった。
だが、そこに“ドラゴ”親子が立ちはだかる。ヴィクターは冒頭からソファーで雑魚寝中に起こされ、ランニング中に『早く走れといったら早く走れ。』と叱咤され、試合中すら父親に罵倒される。およそ親の愛情など受けたことがないであろう彼の憎しみがこもった目は忘れがたい。演技経験のないフロリアン・ムンテアヌだが、本物の格闘家ならではの闘志むき出しの表情は見事だし、父・イワンに責められる時の恐れや悲しみや寂しさが出てしまう情けない目も見事だ!
そしてなにより素晴らしいのがドルフ・ラングレン演ずるイワン・ドラゴだ。30年以上にわたる悲しみと憎しみが刻まれた顔と佇まいはアカデミー賞ものだ。最初こそ冷静な面持ちだが、イタリアンレストランでロッキーと邂逅した際には地の底から響くような憎悪がこもった声で喋り出す。男の色気と哀愁に満ちた瞬間だ。
恨みで視界が曇ったアドニスに相手の規格外のパワーに為す術なくKO寸前。相手の反則負けにより王座は守られたが、自身の情けなさと憎しみでアドニスはさらに苦しむ。だが愛娘アマーラの誕生により、父親の過去の遺恨ではなく、今を生きる家族とその未来のために立ち上がる。『ロッキー4』よろしく僻地での地獄の特訓を経て蘇るアドニスの虎の目!今回は雪原ではなく荒野というのが画面をとてもフレッシュにしている。癒えたばかりの肋骨を殴ってどうするとかは言ってはいけない。
そしてクライマックスの試合は本作最大の目玉だ。前作以上にアップを多用し、よりキャラクターの内面に飛び込むカメラワークに興奮した。何度殴られても不屈の闘志で立ち上がる姿はロッキーそのもの。よりダイナミックに仕上がったお馴染みのテーマとアドニスの勇姿!負けじと立ち上がるヴィクター!ルドミラが退席しても諦めないヴィクター!復活したアドニスにタコ殴りにされても立ち続けるヴィクター!
何を隠そう筆者はアドニスのドラマ以上にヴィクターのドラマに号泣してしまった。生まれてからずっと親の愛情を求めて戦い続けたヴィクターを思うと、この文章を書いてる今も目頭が熱くなる。『ロッキー4』では冷徹な悪役に描かれたドラゴ側にも骨太なドラマを持たせたことこそ本作最大の魅力だろう!一番大事なものは国でも威信でもなく息子と気づいたイワンが投げた血染めのタオルにその全てが詰め込まれていた。
試合が終わり、アポロの墓前で孫娘を紹介するアドニス。そしてはるばるロバートのもとまで足を運ぶロッキー。“クリード”と“バルボア”、そして“ドラゴ”の親子の間に流れる壮大なドラマ!今年のチャンピオンは『クリード 炎の宿敵』で決まりだ!!!